高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
  劇団フライングステージ公演 gaku-GAY-kai 2019
                『贋作・から騒ぎ』    
     No. 2019-057

 今年最後の観劇は来年雑司ヶ谷の会で会読することになっている『から騒ぎ』。
 劇団の名前も初めてなら、劇場も全く初めての場所。方向音痴であるが、初めてといってよい程迷わずに行けた。場所は新宿歌舞伎町2丁目、西武線新宿駅沿線の雑居ビルの4階。
 エレベーターで4階まで上がると、開場5分前ですでに6人ほどが階段に並んでいた。
 29日と30日の2日間で4ステージの上演となっているが、すべての回が満席となっているということだった。
 29日の昼の部だけが二部構成の第一部だけで料金もその分割安となっている。
第二部は出演者一人一人が多種多様なパーフォーマンスとなっていて終わりの時間が分からないということで、我々が観る回が終わるとすぐに第二部のリハーサルを始めるということであった。
 観客は老若男女多種多様であったが、おおむね若い世代が多かった。
 自分は例によって最前列の中央の席をゲット。舞台は目の前から30cmと離れていない。
 いつものことながら劇団については予め調べることなく白紙の状態で観る。
 マエセツで主宰者の関根信一が「いつもなら女装で出てくるところですが、事情で今回は髭をつけての登場です」と断っていたが、劇中の登場人物であるヒーローやベアトリスほか女性陣はすべて女装の男優たち。
 関根信一の断りの理由はすぐに分かった。当初のキャステイングではドン・ペドロ役の中島聡が事情で降板し、修道女フランシスを演じる予定であった関根がペドロを演じることになったからであった。
 観劇内容より前置きが長くなったが、開演前の関根のマエセツが観客に優しい言葉で語りかけ、それが飽きることもなかったので、こちらもつい前置きが長くなった。
 「贋作」と銘打ったシェイクスピアの『から騒ぎ』であったが、1時間25分という上演時間にもかかわらず原作のエッセンスは全て取り入れられ、自分が期待していた場面もすべてカットされることなく取り入れてあった。
 舞台の場所はシチリアのメッシーナから新宿の歌舞伎町2丁目に移され、ドン・ペドロたち一行は東京都知事小池百合子との闘争に勝利して凱旋してきたところから始まる。
 ドン・ペドロ(関根信一)は歌舞伎町のドン、クローディオ(芳賀隆宏)は渋谷の若者、ベネディック(さいとうまこと)は世田谷の若者、レオナート(永山雄樹)は新宿2丁目のリーダーという設定。
 迎えるヒーロー(エスムラルダ)やベアトリス(モイラ)のド派手なメイクにまず驚かされた。彼女らの紹介にはわざわざ「女装の」という形容詞が付される。
 出演者の芸名からは女性だか男性だか分からない名前もあり、登場人物の役者の性別の区別がつかない出演者もあった。
 主筋の登場人物名は原作通りであるが、脇筋の登場人物では警吏のドグベリーはキャストの木村佐都美の芸名を取り入れてサトミーナ、夜番は自警団キャッツアイのメンバーとして登場し、書記は新宿の交番の巡査という設定に変えられていた。
 ドン・ペドロの腹違いの弟ドン・ジョン(岸本啓孝)はドン・ジョン子として登場するが、彼(彼女)が兄のドン・ジョンを憎んでいる理由が劇中で明かされる。それはホストクラブを経営する兄に対し、ゲイバーを開くことを提案するが拒否され、その後拒否した当の兄がゲイバーを開いて成功していたからであった。
登場人物全員がゲイであり、ヒーローとクローディオの結婚は新宿で最初の同性婚として祝され、この翻案劇である贋作は、ゲイの祝祭劇とも、賛歌としてもとらえることができる。
 観劇後、遅まきながらこの劇団に興味を持ってネットで調べてみた。
 劇団フライングステージの旗揚げは1992年で、「ゲイの劇団」であることを公言し、「ゲイ」であることにこだわった芝居作りを続け、シェイクスピア作品は今回が3回目で、最初は2017年の『贋作・夏の夜の夢』、次が18年の『贋作・冬物語』で、今回の『贋作・から騒ぎ』は「シェイクスピア喜劇をにぎやかに翻案」とあり、まさにその標榜通りで「にぎやか」で楽しい劇であった。
 タイトルの前に「gaku-GAY-kai 2019」を「ガクゲイカイ」と読ませている理由も「ゲイ(GAY)の集団」をかけての「学芸会」の意味と重なる趣向を凝らしている。
 今年最後の観劇を愉快な気持で観終わって、今年の観劇を締めくくることができた。謝、謝!!

 

作・演出/関根信一
12月29日(日)14時開演、新宿シアターミラクル、チケット:2000円、全席自由席

 

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