高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   明治大学シェイクスピアプロジェクト・第16回公演 『ローマ英雄伝』
   第一部 『ジュリアス・シーザー』 第二部 『アントニーとクレオパトラ』 
No. 2019-051
 

 その華やかさと豪華さで商業演劇にも劣らないスケールと迫力、しかも商業演劇にない純真さがまぶしく輝く明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)公演。
 必要は発明の母というけれど、『シーザー』と『アントニーとクレオパトラ』を合せた『ローマ英雄伝』もその一つ。
 MSPへの参加希望者が多いということで生まれてきたのが、ここ数年における複数の作品を一つにして仕上げて上演されてきており、その組み合わせのユニークさと適切さに感心しながら、その組み合わせでどんな展開を見せてくれるか、楽しみな期待を抱かせてくれてきた。
翻訳に始まって、制作、演出などはすべて学生たちだけの手によってなされているが、唯一演目だけはコーディネーターの文学部准教授井上優が決定しているが、その着想と着眼点にいつも感心させられている。
 シェイクスピアの作品は、全体的には登場人物もそれほど多くなく、また当時の演劇事情から女優がいなかった(少年俳優が女役を演じていた)ことから、女性の登場場面が少ない。
 にもかかわらず、参加希望者は圧倒的に女性の数が多い。
従って、男役を女子学生が多々演じ、しかも主要な役を演じることが多く、それがかえって大きな効果をあげ、成功してきた例が多いのもこれまでの特徴となっているが、今回の最高の収穫は、第一部の『シーザー』でキャシアスを演じた1年生の和中みらいを挙げることが出来る。
 女性的な内面性をもつキャシアスという人物像を考えるとき、その役に女性をあてるというキャスティングは成功の第一歩であったが、それを見事な演技と台詞力で応えたのが和中みらい。
第一部の主役は、和中のキャシアスといっても過言ではないほどであった。
 第二部では主要な武将でアグリッパがいるが、この役も女子学生の新田みのりが演じているが、第二部はエジプトの華やかさからクレオパトラを中心とした女性が目立つとことから、役柄としては寧ろ地味であった。
 第二部ではやはり何と言ってもクレオパトラを演じた酒向玲奈が魅力的に演じていたのが光っていた。
 2つの作品をどのように構成するかも関心のあるところだが、2つを結び付ける「歴史は巡る」を、オープニングではジュリアス・シーザー(本崎嵩汰)の凱旋式、クロージングではオクタヴィアヌス・シーザーの凱旋式という共通項を、大勢の市民たちによるダンスシーンによって表象することでシンボリックに連環づけられていたと思う。
 2つの作品を一つにしての上演という制約もあって、それぞれが1時間半足らずで、そのため内容的にもかなりのカットがあった。
 第一部では、一番のハイライト、見せ場であり聴かせどころでもあるブルータス(太田圭佑)とアントニー(櫻井雅輝)の演説の場面が、少し拍子抜けするほどあっけなかったのが残念であった。
 この両者の市民への呼びかけのことばの順序の違いの特徴や、市民たちの感情を煽り立てていくアントニーの演説などは、他を犠牲にしてもじっくりと聴かせて欲しかったし、その意味でも観客をも巻き込んでいくものになっていなかったのが惜しまれる。
 アントニーとオクタヴィアヌスは第二部で中心的になることから、第一部では少し抑え気味の登場であったのはよしてして、ブルータスとキャシアスを中心にしたまとめかたはよかったと思う。
 第二部は、原作での場面転換も非常に多い作品であるが、大事なところでここでもすこしあっけなくやり過ごさせる場面が多かったが、見どころとしてはやはり何と言っても、メイクと大胆な衣装で魅力的に演じた酒向玲奈のクレオパトラと彼女を取り巻く女官のシャーミアン(橋本彩)、アイラス(高桑里緒)と宦官マーディアン(小林雅人)のエジプトの宮廷世界と、オクタヴィアヌスを演じた浦野朋也の一連の所作が秀逸であった。
 浦野が演じたオクタヴィアヌスは、冷徹感をもろ表情に出し、潔癖感が強く、アントニーと握手を交わすと(それも見るからにいやいやながら)、手を離した後すぐにハンカチでさも不潔なものに触れたとでもいうかのようにしっかりと拭う。また、姉オクテーヴィア(田中希実)に対する愛も彼の異常なまでの肉親愛を示す演技は、冷徹な彼の性格とは裏腹で滑稽味さえ感じさせる面白さがあった。
 スケールの大きさとともに、秀逸な人物造形を堪能させてくれた大舞台であった。
 上演時間、途中15分間の休憩をはさんで、3時間20分。


翻訳/コラプターズ、演出/谷口由佳、プロデューサー/武井恵、監修/西沢栄治
11月10日(日)12時開演、明治大学駿河台キャンパス・アカデミーコモン3Fアカデミーホール
座席:(Aブロック)6列(最前列)15番


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