しばらくお休みの知らせを聞いたときには淋しく思ったが、うれしいことに約2年ぶりにシェイクスピア・プレイハウスが、ひとまわり小さくなって復活。
4日間で5ステージの公演で、部屋の広さから総計75名だけがこのステージに出会えるというチラシのキャッチコピー。
観劇した日は千秋楽の最後のステージであったが、定員を上回る観客でこの日も満席ということだった。
シェイクスピアの『リチャード三世』を猫の世界のストーリーに置き換え、出演者3人は全員猫のスタイルで、顔には猫の仮面を付けての登場。
リチャード3(スリー)ことクロスターは全身黒のつなぎの衣装を着けた黒猫姿、バッキンガムなどを演じる猫はグレーの衣装の東遥、語りとアンサンブル役は白猫姿の菊池春菊。
マエセツとして白猫姿の菊池春菊が動物写真家のイワーゴとして登場し、いんぐらんど街で1匹の黒猫に出会い、「その黒猫グロスターはいんぐらんど街のボスの座を奪い取るため、敵対する一族は勿論、身内をも平気で殺してしまうようなとんでもない悪猫だった」という、その生きざまを追うことになったいきさつを語る。
イワーゴの語りに続いてクロスターが演じる黒猫グロスターが登場し、『リチャード三世』の有名な冒頭の独白の台詞を語り始める。
台詞の要所にネコ語としてのアクセントを入れていて、悪猫グロスターの台詞の調子にはやわらかみをさえ感じさせるものがあった。その台詞のやわらかみとやさしさは出演者全員に通じるものであった。
話を猫の世界に移してはいるものの、登場人物の名前も話の展開も原作に忠実にそっており、登場人物も内容もほとんど省かれておらず、さらには話の展開を分かりやすくするために、あらかじめ録音されていた春菊による解説が入っており、シェイクスピアのこの作品を知らない人にも分かりやすくなっていたのではないかと思う。
省略がほとんどないだけに、上演時間も途中15分間の休憩を含んで2時間50分と長時間であり、狭い空間で照明と人息で熱気あふれる部屋で、つなぎの衣装で演じる出演者は相当にエネルギーを消耗したと思うのだが、最後まで熱く演じていたのが印象的であった。
クロスターの黒猫グロスター以外、東遥と菊池春菊は一人何役もこなす重労働にもかかわらず、観客を混同させることなくそれぞれの役をうまく演じ分けていた。
出演者と観客の熱気のエネルギーを存分に味わうことのできた舞台であったが、これから先も、より小さな、小さな舞台作りを目指していくという終演後のクロスターの挨拶が心に残った。
最後に、出演者だけでなく、この舞台で重要な役割を担っていた音響・照明の五十部裕明にもエールを送りたい。
また、ひとつ、シェイクスピアの新しい試みの期待と楽しみを期して、感謝!
訳/松岡和子、演出・脚本/ホースボーン由美、音響・照明/五十部裕明
11月4日(月)13時開演、鶴川・Shakespeareポツンとひと部屋劇場、
チケット:2000円(ドリンク付き)
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