高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
    阿羅華瑠人 ゲネプロ 『ヴェニスの商人』           No. 2019-047

 本公演中、心臓の手術で入院するためこの演読劇の観劇を諦めていたのだが、幸いにもゲネプロを観る機会を得ることが出来た。しかも、たった一人の観客として。
 ゲネプロは本公演とまったく同じ形で行われ、第一部が髙木謙成の講談『ゴルゴ13講談』とマホトーンによるコメディ・マジック、そして第二部として朗読劇『ヴェニスの商人』(チラシには「朗読劇」とあるが、演じながらの朗読ということで、自分は「演読劇」と呼んでいる)。
 講談といえば時代物を思い浮かべるのだが、50年に渡って連載されている劇画『ゴルゴ13』は、ゴルゴ13を知っている者にとってはわくわくする展開で、しかも決着をつけないまま次回へとつなぐ終わり方も昔なじんだ講談とまったく同じスタイルで非常に興味深く、楽しんで聴くことができただけでなく、あらためてさいとうたかおの『ゴルゴ13』を読み直してみたくなった。
 つづくマホトーンのマジックを見るのは今回が二度目だが、たった一人で観るのは、ある種の緊張感があった。マジックの最後は、9マスのボードに、〇Xを使ってのマジシャンと観客である自分とのオセロゲーム。結果は引き分けであるが、実はこれは勝負に意味があるのではなく、〇Xで埋まったボードの裏をひっくり返すと、シェイクスピアの肖像と「次は『ヴェニスの商人』」と文字の画面となっているという趣向で、次の第二部へと引き継がれるようになっているのがミソであった。
 第二部は坪内逍遥訳による朗読劇(演読劇)『ヴェニスの商人』。
 この台本構成にあたっては、3人の女優だけで演じるということで、当初坪内逍遥訳ではなくオリジナルでの翻訳構成を打診したが、坪内逍遥訳で真っ向勝負がしたいという意向で、逍遥訳で、アントーニオ、ポーシャ、シャイロックという3人の登場人物だけの台本構成とした。
 出演する3人の女優さんたちにとっては真逆的ともいえるキャステイングで、アントーニオに白井真木、ポーシャに北村青子、シャイロックに倉橋秀美が演じ、その真逆性が台本構成をした自分にとっても見どころとしての興味であったが、期待に外れず、それぞれの演技を十分に楽しませてもらった。
 また、台本を渡した後、その台本をかなり修正(?)がされていることを聞いていたので、どんな仕上がりになっているのか気になってもいた。
 その結果は冒頭の場面からすぐに表れた。
 第一幕第二場、北村青子演じるポーシャの「ネリッサや、わたしのこの小さい身体が、ほんとに、この大きな世界に飽き飽きしてしまったのよ。・・・…ヴェニスのバッサーニオさんのことならよう覚えてゐます、お前が褒める通りだと思ふわ。…さ、ネリッサ、お前は先へお出で」で始まり、その退場の後、1幕1場のアントーニオの憂鬱の台詞の場面の構成へと変更されていた。
 台本構成にあたっての注文は、登場しないバッサーニオの存在が浮かび上がる台詞構成を求められていたが、3人の登場人物の台詞では必然的にバッサーニオが登場することになるので、その辺についてはまったく問題がなかった。
 構成上、各登場人物が一人で登場する場面が多いが、法廷の場面だけはアントーニオ、バッサーニオ、それに裁判官に変装したポーシャと3人が出揃う。
 シャイロックが退場した後、舞台奥で吠え声ともつかない絶望の叫び声を発し、最後の指輪騒動の場面に移る前、誰もいない舞台にシャイロックがひとり無言のまま登場し、おもむろに観客席に背を向けてしゃがみ込み、暗転する場面は象徴的な効果を表出していた。
 出演は、3人の女優のほか、琵琶演奏に尼理愛子。
 本番とまったく変わらない舞台を一人独占で観劇できる機会を与えてくれた出演者一同の皆さんに感謝したい。

 

翻訳/坪内逍遥、台本構成/高木 登、演出/芦屋 透
10月23日(水)17時より、阿佐ヶ谷ワークショップにて(ゲネプロ) 

 

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