高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
    板橋演劇センター公演No.105 『冬物語』              No. 2019-040

 板橋演劇センターとしては、16年ぶり、4回目の『冬物語』。
 今回の特徴は、劇そのものを物語の中に包み込んだ演出にある。
 開幕とともに、ホリゾント一面に映像で雪が吹き荒れる中、マミリアスを演じるクラウディア花怜が本を読みながら上手舞台奥から登場し、舞台前面のやや上手寄りのところに座ってその本を読みふける。
 やがて舞台奥の下手側からアーキデーマスがカミローに歓待の感謝の言葉を述べながら登場し、続いてボヘミア王ポリクシニーズとシチリア王リオンティーズがハーマイオニと共に現れる。
 ハーマイオニの再生とパーディタとの再会の最後の場面となって、マミリアスが再び元の位置で本を読んでいる場面で終わり、この劇が母親のためにマミリアスが読んでいた本の「物語」の内容であったことを表示する。
 遠藤栄蔵の演出によるこの劇を観ていて思いついたことがある。
 シェイクスピアの作品の中で「嫉妬」をテーマにした劇として最も有名な劇は『オセロー』であるが、この『冬物語』もリオンティーズの嫉妬が一つの大きなモチーフとなっているが、『オセロー』がイアーゴーによって聴かされる聴覚的嫉妬に対し、リオンティーズの嫉妬は眼前の事実を目にしての妄想的な視覚的嫉妬という違いがあることに気が付いた。
 オセローの嫉妬はイアーゴーによって妄想が妄想を生んで徐々に心が蝕まれていくが、リオンティーズの嫉妬は瞬間的に爆発する。この不自然さをいかに自然に演じて観るものを納得させるかが見どころの一つであるが、リオンティーズを演じた深澤誠はそれなりに納得させる演技でこなしていた。
その深澤誠の台詞回しを聴いていて、遠藤栄蔵方式なるものを感じた。
 キャステイングで興味深く、また楽しませてもらったのは、92歳の岡本進之助の羊飼いとポーリーナを演じた村上寿。とくに岡本進之助は92歳とは思えぬ軽やかな所作と、はっきりとした台詞回しにはただただ感歎させられた。ポーリーナの村上寿もそっけない朴訥で寡黙ともいえる台詞回しが却って印象強かった。
 和田花音がハーマイオニとパーディタの二役を演じたが、最後の二人の再会の場面の演出をどのようにするかも興味があったが、彫像としてのハーマイオニはその代役が観客席に背を向けて顔は一切見せず、台詞は彼女の背中に隠れて見えるパーディタが代わってしゃべった。
 台詞や場面を大胆にカットして劇はテンポよく進行。
 出演は、ポリクシニーズに古谷一郎、カミローに加藤敏雄、アンティゴナスと「時」に遠藤栄蔵、オートリカスに高岩明良など、総勢16名。
 上演時間は、休憩なしで2時間15分。

 

翻訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
9月7日(土)14時開演、板橋区立文化会館小ホール

 

>> 目次へ