高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ショナル・シアター・ライブ 『アントニーとクレオパトラ』     No. 2019-038
 

 実際の舞台を観ることが出来ないのは残念であるが、上映版ではインタビューなどで舞台裏の話を聞けるというメリットを楽しむことが出来るので、それがいくぶんか相殺してくれる。
 『アントニーとクレオパトラ』は、テキストでは42場面と場面の切り替わりがシェイクスピアの作品の中でも最も多く、その場所もエジプトのアレクサンドリアとローマの2つにまたがっているが、ヒルデガルド・ベヒトラーの舞台装置は、二重底になった回転式の盆を用いて効率的にかつ効果的に場所を転換することでスピード感を持たせていた。それとともにこの舞台装置は、この作品が持つ「愛」と「戦争」、「エジプト」と「ローマ」、「アントニー」と「シーザー」という二律背反する二つの世界である2つの相いれないテーマを受容して表出するのに効果を高めていた。
 アレクサンドリアの舞台では、中央に本水をたたえた泉がある官能の世界を表象し、ローマでは大きな液晶画面が壁面に備えてあって、ハイテクの世界を表していた。
 二重底の盆からは、ポンペイの船を表象する大きな半円ドームのような形状の構造体がせり上がって来る。
 二項対峙ということに関しては、登場人物のキャステイングにも感じられるものがあった。
 アントニーを演じるレイフ・ファインズは白人、敵対するシーザーのタンジ・カシムは黒人、クレオパトラに対してオクティヴィアは白人、クレオパトラの侍女シャーミアンとアイラスは黒人と白人、イノバーバスは男優で敵将アグリッパは女優のケイティ・スティーブンズが演じているが、こういったキャステイングはイギリスの俳優組合の事情との兼ね合いもあっての事だろうとも勝手に推察する。
 インターミッションにおけるインタビューで、衣装を担当したイーヴィー・ガーニーがクレオパトラの衣装について語り、舞台装置とソフィー・オコネドのイメージから、波状に飾り房を付けたティアードを黄金色に決めたことや、ナイルのイメージを想起させるプリント模様の衣装など、デザイン、縫製、染色などの工程をすべて手作りで行ったことを聞いたことを参考にして、後半部ではそれを意識してクレオパトラの衣装に関心を持って観ることが出来た。
 ついでながら、登場人物の衣装は全て現代服で、軍服も現代のもので、戦闘場面は銃をもってなされる。
 開幕冒頭のシーンは、クレオパトラの霊廟でシーザーが彼女の追悼スピーチをするところから始まった。
 この場面は、最後に再び繰り返されて、冒頭シーンを見た時から円環構造となることを予期させるものであった。
 追悼スピーチが終わったところで場面は一旦暗転し、舞台上に横たわっているクレオパトラにスポットライトがあてられ、場面はアレクサンドリアの宮殿の場となり、アントニーが登場し横たわっているクレオパトラを抱き起こす。
 胸をはだけただらしない姿でクレオパトラへの愛に溺れるアントニーの頽廃的な姿を演じるレイフ・ファインズ。
 かつて日本での公演で観た彼のリチャード二世やコリオレイナスを演じた精悍なイメージとは打って変わった中年で頭のてっぺんの毛が薄くなったレイフ・ファインズだが、世界を二分する一人としてのスケールの大きな人物を演じるにふさわしい貫録を感じさせた。
 感情の起伏が激しく気分が直ぐに変るクレオパトラを演じるソフィー・オコネドとレイフ・ファインズとの二人の演技がこの舞台の最高・最大の見せ場であるが、関心の的の一つであった、道化回しを演じるティム・マクマランのイノバーバスも期待に沿ったものであった。
 舞台装置、衣装、キャステイングもさることながら、この作品の持つスケールの大きさを十二分に堪能させてくれる舞台であった。
 上演時間(上映時間)は、途中20分間の休憩をはさんで3時間40分。

 

演出/サイモン・ゴッドウィン、装置デザイン/ヒルデガルト・ベヒトラー
8月29日(木)12:30-16:15、シネリーブル池袋、
料金:3000円、パンフレット:800円

 

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