高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   カクシンハン第13回公演 『薔薇戦争』
    『リチャード三世』 & 『ヘンリー六世(三部作)』        
No. 2019-034
 

 逆薔薇版『薔薇戦争』、『リチャード三世』と『ヘンリー六世』三部作、7時間の通し公演を観る。
 『薔薇戦争』は3年前の2016年5月にも同じシアター風姿花伝で上演されており今回2度目であるが、演出の挨拶文によると「新作」となっている。
 前回は、『R3』と『H6』は別々の日に観ているが、『R3』が前回2時間40分で今回の2時間30分とほぼ同じ長さであるのに対し、『H6』は、前回は3部通して3時間半で、第一部「二つの国」、第二部「二色の薔薇」、第三部「二人の王」と二項対立のタイトルが付けられていたが、今回は第一部が75分、第二部が80分、第三部が90分、合計で4時間と長くなって、前回と多少異なっており、その意味では「新作」と言えるかもしれない。
 全体を通しての感想は、台詞とドラム演奏の「音」の過剰と過激さで、途中、ドラムの音に何度か耳をふさいだことと、『R3』と『H6』の間に1時間の休憩があるものの、7時間の観劇にさすがに心身ともに疲れたというのが正直な感想であった。

 

『リチャード三世』

 『R3』は、全体の構成としては、冒頭場面と終わりがほとんど前回と同じで、冒頭部では、ホリゾントの幕間から足から生まれてきて舞台中央部まで転げ出る。
 ホリゾントを背にして黒い布に包まれた赤ん坊を抱いたヨーク公爵夫人が赤ん坊の顔を見て絶叫したところをリチャードがピストルで撃ち殺す。
 そして、舞台上ではヨーク家の勝利と繁栄を祝っての祝宴の場となり、その場がストップ・モーションとなったところでリチャードの悪党宣言の独白が始まる。
 主だった違いを感じさせたのはキャステイング。
 主演のリチャードの河内大和は変わらず、アン、仮面をかぶったショア夫人、リッチモンドを演じる真以美も同じで、目だった違いとしてはエリザベス王妃が前回の岩崎MARK雄大から宮本裕子、前回ダブルキャストで自分が観た回では葛たか喜代であったマーガレットを今回は真以美、ヨーク公爵夫人は前回のぐち和美が演じて圧倒的な存在感を見せつけてくれたが、今回は長内映里香が演じたが余りに若すぎて少し物足りなかったのが残念。
 今回エドワード四世を演じた岩崎MARK雄大は、エドワード王の髭面のままで息子のエドワード王子も演じた。
 ヘイスティングズ卿には、野村龍一が、真黒な丸いサングラスに、胸には役行者のような大きな珠の数珠を首にかけ、あくの強い姿で登場する。
 3幕7場、バッキンガムや市長たちがリチャードに王位に就くことを迫る場面で、上半身裸の姿に仏像の光背を背中に付けたリチャードが二人の聖職者にはさまれて祈祷書を読んで祈りをしている場面はコミカルなタッチで笑いを誘うが、王の座に就くことを受け入れ一同が去った後のリチャードの演技が少し淡白でもう一ひねり欲しい所であった。ここで10分間の休憩。
 『R3』は、前回の公演の感想でも書いたが、せむしでびっこの不自由な肢体の容姿のリチャードを演じる河内大和の表情、所作豊かな演技が一番のみどころ。

 

『ヘンリー六世』三部作

 『H6』の冒頭部の舞台上には、赤と白に色分けされた折り畳み式パイプ椅子がピラミッド状に積み上げられていて、開演とともに登場人物の一団が客席通路から舞台に駆け上がって、その椅子を次々に取り去って、赤と白の両側に別れて、それまで着ていた衣服を脱いで、赤と白のジャージ姿になり、赤薔薇と白薔薇の対立を表象し、審判姿の黒色の衣装の人物の笛の合図で、これから『ヘンリー六世』を演じることを宣誓する。
 黒色の衣装の人物に「ヘンリー五世」と書かれた垂れ幕を付けた王冠がかぶせられ、そのままヘンリー五世の葬儀の場となる。この始まりは、前回の上演とは全く異なっている(詳しくは2016年の観劇日記(No. 2016-014を参照)。
 『H6』三部作の特徴は、登場人物が非常に多いことで、それを21名の出演者で演じるので、一人何役もするのが多く、出演者の名前と顔が一致しないので、登場人物の誰であるのか最初は戸惑うことが多かった。
 しかしながら、反面、それが役どころの早変わりとなって見ものとなっていた。
 第一部の冒頭場面から、河内大和が、まずエクセター公、続いてフランスの皇太子シャルル、そしてイングランドのトールボット卿、そして最後はサフォーク公と次々に早変わりし、第二部では、サフォーク公とリチャード、第三部ではリチャードのみの役となり、『R3』と密接な関係を描く。
 真以美は第一部でマーガレット、第二部でマーガレットと巫女マジャリー、第三部ではマーガレットと少年リッチモンド役と、これまた『R3』に関連する役柄を演じる。
 第一部は、フランスの地ではトールボットと乙女ジャンヌ(長内映里香)を中心にした戦闘場面、イングランドでは摂政のグロースター公(別所晋)とウィンチェスター司教(小田伸泰)の対立、最後にサフォークの捕虜となったマーガレットがヘンリーの妃に推挙されるまでが演じられる。
 第一部は上演時間も1時間15時分と比較的短く、カットが多く淡々と進んだ感じであったが、印象として残ったのは、シャルル、アランソン、レニエのフランス側の3人の、テニスかサッカーのスポーツ着のようなカジュアルな衣装姿であった。
 原作の半分以下に圧蝕されている為、ときおり、台詞の中に概況説明を折りこむなどの工夫とともに、史実とのギャプを面白おかしく取り入れている部分があり、それが観客の笑いを誘う。
 その好例は、第4幕第一場、パリでのヘンリーの戴冠式の場面で、史実ではヘンリーは父ヘンリー五世の死でわずか生後9ヶ月で王位を継ぐことになるのだが、この場面でのヘンリーの台詞は立派な大人の台詞となっているが、ヘンリーを演じる鈴木彰紀は、「9カ月のヘンリー」をことさら強調して台詞を語るので、そこで笑いが起こる。
 第二部は、マーガレットとヘンリーの婚儀から始まるが、第二部の中心人物はなんといってもこのマーガレット。底意地の悪い傲慢なマーガレットを真以美が好演。特に摂政グロースター公爵との対立、公爵夫人に対する嫌がらせなど、その底意地悪さを存分に発揮し、観客としての感情移入でこのマーガレットに腹立たしさと憎しみを感じてしまう。
 一部と二部の間の10分間の休憩時間に、シェイクスピアに扮した岩崎MARK雄大が観客に赤薔薇と白薔薇のどちらの組に好感を感じるかという質問をしたが、ランカスター側の赤薔薇に手を挙げるのはほとんどなく、大半がヨーク側の白薔薇を応援していたのも興味深かった。
 二部では、グロースター公爵やウィンチェスター枢機卿が亡くなり、ヨーク公リチャードの台頭、その息子エドワードやリチャードが登場してきて世代交代の場ともいえる。
二部のエピソードとしての事件にジャック・ケイドの反乱があるが、この場面は舞台奥で数名の暴徒が行進している姿で代用されただけで終わった。
 第三部は『R3』と直結していく場面で、三部作の中でも一番長く90分の上演時間を割いている。特に結末では、リチャードがヘンリー王を殺害したところで終わる所を、『R3』の冒頭を予兆させる祝宴の場として、エドワード王子の誕生を祝う場面となって、その終わり方が、祝宴の賑やかな場面が写真撮影というストップ・モーションで場面全体を暗くしたところで、リチャードの独白「俺たちの不満の冬は終わった」が少し続いたところでフェイドアウトする。
 『薔薇戦争』全体を通して遊びの場面が多々あるが、この第三部では死んだクリフォードの尻に細長い筒を突っ込んで、そこに火薬の粉を詰めて花火を打ち上げ、その後背景に花火大会のように花火が盛んにホリゾントに映し出される。
 人物描写では、ウォリック伯を演じる野村龍一をホモっぽい人物にし、男同士の濃密なキッスの場面や、フランス王の妹ボーナ姫をエドワードの妃とする計画を裏切られてヨークからランカスター側に寝返る時、はいていたパンツを脱いで模様の付いた赤色パンツ姿になって赤薔薇組を示すなど、どちらかというと下ネタ的な姿態の場面が多いのもこの舞台の特徴であった。
 エドワードの妃候補となったボーナ姫には、髭面のまま渡辺哲成が演じ、彼はクリフォードに殺される幼いラトランド役も同じ髭面で演じており、その人物のリアルさより笑いを引き出すための人物造形が目立ったのも、この舞台の特徴の一つといえる。
 観る方も相当に疲れたが、演じる方も、長時間、しかも一人何役もこなし、疲れは相当のものだろうが、圧巻であった。

 

翻訳/松岡和子、構成/カクシンハン、演出/木村龍之介、美術/乗峯雅寛
7月28日(日)12時30分開演、シアター風姿花伝、セット券:8000円、全席自由席

 

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