高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   横浜シェイクスピア・グループ(YSG)、新体制で臨む第16回公演
        日英語劇 『コリオレイナス』               
No. 2018-032

 前回をもってYSG(ヨコハマ・シェイクスピア・グループ)主宰者で座長の瀬沼達也氏が退団され、今回から飯田綾乃代表、海老塚祐也統括、斉藤佳太郎マネージャーの3人によるトロイカ体制で新たなる出発の演目は、シェイクスピアの中でも最も知名度の低い作品の一つ、『コリオレイナス』が取り上げられた。
 日本ではほとんど上演される機会がないが、興味ある作品の一つなのでYSGがどのように舞台化するか期待して、今回は5年前に"雑司ヶ谷シェイクスピアの森"で会読したアーデン版とその時のノートを参照しながら再読した上で観劇した。
 版本にもよるが『コリオレイナス』は『ハムレット』に次いで長く3800行からなる作品で、ノーカットで上演すれば4時間近くかかると思うが、それを90分に圧縮しての上演で、作品が知られていないだけに、この作品を知らない観客にどれだけ内容が理解されるかが一番の課題になる。
 そのことを意識してか、今回はいつもより日本語による台詞も多く、特に護民官シシニアスを演じる森川光がもう一方の護民官であるブルータスの役も取り入れ、序詞役のようにして全体の流れが理解できるような台本構成となっており、しかも演じる森川がその役を楽しんで演じているのがありありと見えており、観客も一緒になって楽しめたのではないかと思う。
 劇は主役もさることながら脇役次第で舞台全体が生き生きと盛り上がってくるものだが、今回は演出、制作、出演と八面六臂の活躍をしている海老塚が、コリオレイナスが執政官となるため市民の票を集める場面で、市民3役を一人で演じたのが出色であった。
 最初の市民では、選挙など何の関心もないといったちゃらちゃらした若者を演じ、続いて周囲のことに目が向かないオタク青年、そして最後は杖をついた老人役を早変わりの衣装と演技で演じた。
 執政官選挙にあたって、コリオレイナスの選挙ポスターや彼自身が選挙のタスキをかけて市民に投票を依頼して呼びかける姿は、今、参議院議員選挙の最中にあるだけに、海老塚の市民役はその選挙の有り様をとらえた時事的な風刺としてもよく出来ていたと思う。が、なによりも、面白かったことが一番であった。
 出演情報によると一人芝居『ハムレット』の公演が予定されているオーフィディアスを演じた佐瀬恵子は、貴公子然として颯爽としており、まさにハムレットを思わせ、注目した一人であった。
 コリオレイナスを倒した後のオーフィディアスの「遺体を担ぎ上げろ」という台詞は『ハムレット』のフォーティンブラスに重なるが、「立派な記念碑を建て、彼の高潔な生涯を長く記憶にとどめよう」という台詞の場面で、コリオレイナスの剣を台座に突き立ててメモリアルに表象する演出は印象深く、心に残る秀逸な演出だった。
 コリオレイナスの母親ヴォラムニアを飯田綾乃、妻ヴァージリアを遠藤玲奈、友人ヴァレリアを小嶋しのぶと、英語の発声の美しい3人が演じ、その台詞力を堪能させてくれたが、3人の衣装も注目された。
 ヴォラムニアは強烈な意志と個性を感じさせる赤の衣装、ヴァージリアは控えめな性格を表しておとなしい色調、ヴァレリアは快活な性格で明るい橙色で、それぞれがその性格を表するのにふさわしい衣装の組み合わせであった。
 『コリオレイナス』では主役のコリオレイナスに次いで台詞の多い、主役に劣らず重要な人物メニーニアスを遠藤敬介が快活に生き生きと演じ、主演の斉藤佳太郎のコリオレイナスを盛り上げていたのも特筆される。
 YSGの重鎮的存在の砂糖正弥がその存在感を発揮してコミニアスを演じ、他にずぶのシロウトと評される客演福地信が存在感のある元老院、もう一人の客演小見山瑛が伝令役その他を演じ、総勢11名の出演。
 今回出演していなかった金森江里子は、音響担当でしっかりとまとめた。
 終演後のアフタートークでは、英語が分からないという人にも理解できたという感想で、今回の日英語の組み合わせは成功であったといってもよいのではないかと思う。
 今後の活躍を大いに期待したい。
 上演時間は、90分。

 

演出・構成・製作/海老塚祐也、演出補佐/遠藤玲奈
7月14日(日)13時開演、横浜・山手ゲーテ座

 

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