高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ワンツーワークス公演 #28 『男女逆転<マクベス>』     No. 2018-030

―「闘う女たち」で男女の役割が逆転―

 「闘う女たち」で問う、いま、なぜ、男女逆転か?!
 『男女逆転<マクベス>』は、写真のネガとポジを逆転したように、登場人物の名前はそのままで、只一人の例外を除いて、男役は女が、女役は男が演じるだけでなく、役割もまったく男女がすべて逆転し、マクベス夫人はマクベスの夫、マクダフ夫人もマクダフの夫として登場し、ダンカン王はダンカン女王として登場する。
 男女の性を逆転させることから、台詞の口調を女性言葉にするだけでなく内容も一部変えられる。
 例えばマルカムの台詞で、マルカムがマクダフを試すために偽りの台詞で語る彼(彼女)の「女狂い」が「男狂い」の台詞に変えられるといった具合に。
 魔女も「魔の者」として6人の男と一人の女が演じる。
この魔女の数が7人というのは、ヘカテと、3人の魔女に加えて唄う3人の魔女が登場するミドルトン作の『魔女』とダヴェナントの改作版にあるのに通じる。
 「魔の者」はマクベスの夫の従僕たちをも演じ、その内の一人をマクベスの夫役が演じることで、魔の者としてのマクベスの夫がすべてを操っていることを暗示させる。 
 開演はヘヴィメタルの烈しい音響とともに女戦士たちが登場し、ストップモーションで戦闘場面が表象される。
 劇の展開は、男女が逆転しただけで原作の『マクベス』と変らない。
 男女の逆転の只一つの例外は門番の役が原作通り男であることだけで、彼も出演する他の男優と同じく、従僕と魔の者を演じる。マクベスの邸が魔の者に支配されていると考えれば、門番が男のままであるというのは例外として考えなくてもよいかも知れないが、問題は魔の者の一人を女優が演じていることである。彼女も従僕を兼ねているので男女逆転の原則からは外れていることになる。
 さて、いまなぜ男女逆転の『マクベス』かという問題であるが、現代社会の裏返し(ネガ)としてとらえれば、戦う企業戦士の男たちに代わって女たちが闘う(企業)戦士としてのアレゴリー、寓意として考えることもできる。
 もっと突き詰めれば、女性たちが闘わざるを得ない社会を反映していることにもなるだろうが、そのことから見たとき、マクベス夫人の役を務めるマクベスの夫(の台詞)が滑稽でおかしみを感じざるを得なかった。
 もっともそのおかしみと滑稽さは、マクベスの夫がマクベスからの手紙を読む場面から感じたことではあるが。
 結末は、マルカムが勝利宣言し全員が退場した後、魔の者たちが彼女らが去って行った後を見送り、最後に観客席側に目を向けて意味ありげな笑みを浮かべ(ように見えた)たところで暗転。
 出演は、マクベスに関谷美香子、バンクォーに小山萌子、マクダフに山下夕佳、マルカムに北澤小枝子、ダンカンとシーワード将軍に有希九美、マクベスの夫に奥村洋治、ほか総勢で26名。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 

訳/小田島雄志、演出/内田聡明、舞台監督・音響/芦屋 透
6月1日(土)16時開演、メイポールスタジオ、チケット:2500円、全席自由席

 

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