高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン 
      読上歌舞伎 『何櫻彼櫻銭世中』        
       No. 2019-026
 

昨年の9月に一度公演されているが、台風24号が直撃するという予報で、大事を取って予約をキャンセルし、残念な思いをしたが、幸い再演されることを聞いて嬉しく思った。
今回は早稲田大学演劇博物館主催ということで、嬉しいことに、リーディング公演に先立って明治大学文学部井上准教授による解説として30分の講演付き。
 講演では、なぜ翻訳でなく翻案であるか、という解説から、シェイクスピア劇翻案作品の歴史などスライドを使って解説され、非常に参考となった。
『ヴェニスの商人』の翻案劇『何櫻彼櫻銭世中』のリーディング公演の感想としては、翻案としての面白さを十二分に楽しませてもらった。
テキストは大阪朝日新聞に掲載された新聞小説を素材にしているが、その中で原作の『ヴェニスの商人』と関係ない部分はカットし、台詞は原文の言葉を使いながら、説明としての語りでは今の言葉で説明したことで、分かりやすいだけでなく、親近感を持って聴くことが出来るという工夫がなされていた。
登場人物の相関図が資料として配布されていたので、語り手が登場人物を紹介する時、その人物が『ヴェニスの商人』のどの人物であるのかも一部併せて紹介されるたで、はじめ誰がどの人物か見分けがつかなかったものが、だんだん掴めてくるようになる。
その相関図は、原作の『ヴェニスの商人』に登場する人物はゴチック体で強調して表示し、原作とは直接関係ない人物との区別がつくように工夫されている。
登場人物名が原作と全く異なっているだけでなく、筋立てにおいてもかなり異なって翻案されており、原作を知っている者にはその違いを楽しむことが出来るが、たとえ知らなくとも楽しめる内容となっている。
箱選びの場面は、中川玉榮(ポーシャ)の求婚者は、玉榮の父中川寛斎の一周忌に、兄弟子の川島市之丞と弟弟子青木庄太郎(バッサーニオ)が競争することになるが、そのためには300両という大金を準備する必要があり、庄太郎は、親友紀伊国屋伝次郎(アントーニオ)が金貸し桝屋五兵衛(シャイロック)から借りた金で都合をつけることができる。
人肉裁判は、大筋で原作と異ならないものの、桝屋五兵衛は許されて改心するだけでなく貸金も戻ってくるというハッピーエンドの結末である。
指輪騒動では、玉榮は元の姿に戻って、衣装だけが変装時の奉行の姿で現れることで正体を現し、大きな騒動もなくめでたく収まるといった具合に、本筋でも要所々々細かい点で異なっている。
そのように本筋の原作との違いや、脇筋の付け加えで原作とは違った趣を楽しむことができるのは、なによりも出演者のクリアな朗読力、台詞力と語り手の適切な説明に負うところが大きい。
話の展開にわくわくしながら、楽しく、面白く、聴き入った。
出恵演者は、桝屋五兵衛に西村俊彦、語り部に浦田大地、中川玉榮に岡本摩湖、川島市之丞に栁沼拓也、紀伊国屋伝次郎に宮津侑、青木庄太郎に西山斗真、お梅(ネリッサ)に小川結子、ほか語り手その他に依田玲奈、菅野友美、高橋拓己の総勢10名。

 

テキスト/宇田川文海(大阪朝日新聞1885年掲載)、補綴・監修/井上 優
脚色/西村俊彦、演出/新井ひかる、西村俊彦
5月25日(土)14時開演、早稲田大学小野記念講堂

 

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