高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ナショナルシアター・ライブ イアン・マッケランの『リア王』       No. 2019-017
 

イングランド南東部にあるチチェスター・フェスティバル・シアターで2017年9月22日から10月28日まで上演され、2018年7月11日から11月3日までロンドンのウエストエンドにあるデューク・オブ・ヨークス劇場で上演されたジョナサン・マンビイ演出Xイアン・マッケラン主演の『リア王』の映像収録版を観る。
上演前のインタビューでマッケランがあえて300人程度の観客席しかない小劇場での上演へのこだわった理由としてあげた観客との距離感、観客の顔がすべて見えるということで、そのためロンドンでの公演でも劇場の選定にこだわった上、デューク・オブ・ヨークス劇場の客席も中央に花道を作り、客席を分断して観客との距離感を縮めている。
また、観客が毎日変わるように演技も毎日変わるというマッケランの言葉も印象的であった。
開幕は、ケントとグロスターとの会話に始まって、花道よりリアの一行が登場するが、先導するのはリアの二人の娘夫婦、最後にリアがコーデリアと腕を組んで登場する。
この日、コーデリアの結婚相手を決める晴れの日、列席の男子は軍服の正装姿(衣装は全員現代服)、リアは領土を3人の娘たちに譲る決意を発表し、領土を与えるに当たって娘たちに自分への愛情の度合いを尋ねる。
ゴネリルやリーガンがどんなに父親を愛しているかを聞いて満足したリアは、イングランドの地図を鋏で切ってその部分を領土として与えるが、それは儀式というよりゲーム感覚のようでコミカルな感じさえした。
「コーデリアは何と言おう」という傍白はなく、いきなり「何もありません」と答えるコーデリアの表情は、つっけんどんを通り越して喧嘩腰のように見え、見ている側でさえ不愉快な気持であった。
リアがゲーム感覚のように娘たちの気持を試しているだけに、また、答える二人の姉娘たちもゲームを楽しむように父親への愛情表現をしているだけに、従順さのないコーデリアのつっけんどんさに、リアが腹を立てるのももっともな感じがした。
このコーデリアの喧嘩腰にも見える台詞回しは、別れ際での姉たちに投げかける口調にも可愛げがなく、単なる憎たれ口にしか見えず、不愉快なコーデリアに対するこの気持は最後まで拭えなかった。
リアの忠実な家臣ケント伯を女性に置き換えられリアの秘書のような印象を与えていたが、追放された後、変装して男として仕える。
嵐の場面では、リアと道化は本水の雨に打たれての演技で、観ている方が気の毒になるくらいずぶ濡れになる。
殺されたコーデリアを抱いて登場する場面でのマッケランのリアは、彼女を背負って登場する。
ブリテン軍とフランス軍との交戦場面は、迷彩服の兵士が銃を持っての戦いで演出されるが、エドガーとエドマンドの決闘は、グロスターの杖代りにしていた六尺棒対ナイフでの戦いで、何となく矮小化された感じ。
道化が消える最後の演出も何の工夫もない感じで肩透かしを食ったような感じが残ったが、一貫してその演技に堪能させられたのはマッケランのリア王、そしてドーヴァーでリアと出会ったグロスターの二人の姿が特に印象として残った。
出演は、主演のリア王にイアン・マッケラン、グロスター伯にダニー・ウェッブ、ケント伯にシニード・キューザック、ゴネリルにクレア・プライス。リーガンにカースティ・ブッシェル、コーデリアにアニータ・ジョン・ヴァーノン、エドガーにルーク・トンプソン、エドマンドにジェームズ・コリガン、道化にロイド・ハッチンソン、他。
上演時間は220分(途中20分間の休憩)。


演出/ジョナサン・マンビイ
収録日/2018年9月27日、デューク・オブ・ヨークス劇場(ロンドン)
4月19日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷にて、料金:3000円、パンフレット:800円

 

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