高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   中国国家話劇院来日公演 『理査三世(リチャード三世)』   No. 2019-015

 2012年のロンドンオリンピックの文化プログラムの一つ「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」で、グローブ座で初演された中国国家話劇院の『リチャード三世』を、今回豊島区の日中韓文化交流の「舞台芸術」部門のスペシャル事業として招聘されての公演。
 王佳男のパーカッションの演奏とともに、上手と下手からランカスター家とヨーク家を表す赤薔薇、白薔薇を表象する軍旗をもった兵士が登場し、その軍旗を交互に上下に交錯させ、最後に白薔薇の軍旗が赤薔薇の軍旗を抑え込んだところで両者が退場し、続いて豪華な王の衣裳をまとったエドワード四世が貴族たちを伴って登場し、舞台中央奥に据えられた玉座に就いた後、椅子から立ち上がって、原作のリチャードの冒頭の独白を語り始める。
 独白の後半部はリチャードが台詞を引き継ぐが、その時、3人の魔女が登場し、リチャードに対し、やがては摂政になられる方、そして王になられる方と予言する。
 その中で「Gの頭文字がつく者が王となる」とも予言され、リチャードもグロースター公として頭文字がGで始まることに着目した点には目を覚まされる思いがした。
 しかし、リチャードは自分のGをさておいて、兄クラレンス公の名がジョージでGがつくことから彼を殺すことを決意し、魔女の予言を王に耳打ちする。
 王が退場したところで入れ替わるようにして、ロンドン塔警備隊長に伴われてクラレンスが登場する。
 この斬新な冒頭部の演出からまず引き込まれていくが、中国語を全く解しないことから、台詞が原作とどのように異なっているかを確認するために、普段は見ることがない字幕スーパーに神経を集中し過ぎて、後半部ではかなり疲れてしまった。
 リチャードがアンに求愛して口説く場面は、国家京劇院の張金(「金」は「森」のように金の字を3つ重ねた文字)がアンを京劇で演じ、京劇ならではの発声と所作が見ものであるとともに魅力となっているが、その張金がアン夫人以外にもエドワード王子と魔女の3役を演じるのも見ものの一つである。
 舞台奥には、6つの宣紙に英文を漢字に見せる四角い字が書かれた背景幕があり、リチャードが邪魔者を一人一人殺していくたびに、一つ一つ、宣紙の上部から血筋が垂れるようにして赤い線状の紐が垂らされていき、その都度、背景幕の上に立ったマーガレットが呪いの予言を繰り返す。
 クラレンス暗殺の場面では、二人の殺し屋が京劇でいう「丑(ちゅう)」(=道化)を演じてコミカル・リリーフとして楽しませてくれるが、2幕3場にあたる場面でも、エドワード王が亡くなって摂政にグロースター公が就き、Gの頭文字がつく者が王となるそうだという市民が噂話をする場面は、大道芸人がその噂話をしているという設定で同じくコミック・リリーフを感じさせる。
 アンを演じた張金が演じるエドワード王子の容姿はガラリと趣が変って、頭に昆虫の触覚のようなものを付けて登場し、声色もアンとは異なって発せられる。
 エドワード王子とヨーク王子の暗殺者ティレルは、クラレンスの殺し屋を演じた二人が二人で一人になって、前方の人物は背丈が後方の人物の腰のあたりまでしかなく、よちよち歩きの「矮歩(わいほ)」で登場する。
 二人の王子を殺害した後、手には血の付いた赤い手袋をはめて戻って来て、リチャードに報告した後、その手袋を脱ぎ捨てて立ち去ると、リチャードがその手袋を拾い上げてはめる。
 リッチモンドが攻めてくるのを迎え撃つために進軍するリチャードの足を止めるのはヨーク公爵夫人ではなく、その前までエリザベス王妃、アン王妃、マーガレットを演じていた3人の女優が、再び冒頭部での魔女の姿となって現れ、リチャードに語りかける。
 最後の場面は、「馬をくれ、馬の代りに王国をくれてやる」というリチャードの台詞で終わるが、その時には背景幕は全面が血で覆われたような状態になっている。
 そして、リチャードが舞台中央部に倒れたまま、再び、「馬をくれ、馬の代りに王国をくれてやる」という声と共に幕となる。
 リチャード三世を演じる張皓越はイケメンで、その容姿も特別な奇形を示すこともなく、普通の人物として造形されていた。
 無料で配布された小冊子(パンフレット)にはロンドン公演では、リチャードが暗殺者の赤い手袋をはめた後、突然形相が一変し、背中に瘤が現われ、奇怪な跛行を始めるとあったが、この舞台ではそれが見受けられなかった(と思う)。
 出演者は、大半が中国国家話劇院の俳優で、総勢で12名。
 上演時間は、途中休憩もなく、2時間15分。
 斬新な舞台演出と演技に堪能させられた。

 

作/W. シェイクスピア、演出/王暁鷹
4月7日(日)15時開演、東京芸術劇場プレイハウス
チケット:(A席)4000円、座席:A列23番(2階席最前列中央)

 

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