高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   劇団東演創立60周年記念公演 
    ワレリ―・ベリャコーヴィッチ演出、能登剛主演 『マクベス』   
No. 2019-014

 2016年12月に急逝したワレリー・ベリャコーヴィッチの遺作となった『マクベス』、劇団東演創立60周年を記念しての公演は、重厚ながらも動きの速い、刺激的な舞台であった。
 シェイクスピアの作品の中でも『マクベス』は『ハムレット』に次いで観劇する機会が一番多かっただけに、自分としての観るポイントが絞られている。
 最初に登場する魔女もその対象の一つである。
 激烈な音楽と共に登場する魔女たちはヘカテと4人の魔女たちの5人で、扮するのは3人のロシア人男優と2人の日本人男優、上半身裸でヘカテ以外の4人の魔女は後ろ向きの姿で顔の後ろ側に銀色の仮面をつけ、手を水平に広げて手首を折り曲げた様子は仏像の千手観音像が動いているような所作で、魔女の台詞はロシア語と日本語で語られ、'Fair is foul, foul is fair'は「善は悪、悪は善」として訳される。
 マクベス夫人がマクベスからの手紙を読む場面はなく、二人の直接の会話で魔女の予言の様子が語られる。
 コーダーの領主になるという吉報は原作ではロスとアンガスであるが、ここではロスとマクダフの二人に変更されている。
 この変更は、ロスがマクダフ夫人を訪れる場面でロスが夫人を妹と呼んでいることから、ロスとマクダフを義理の兄弟という設定にしている二人の関係を先取りして暗示していることになる。
 「王になる」という予言を、一緒にいたバンクオーも聞いたのねと、夫人がマクベスに確認するところは予兆的な台詞として耳に残った。
 マクベスの居城にダンカン王を迎えた宴会の場面は、夫人を中心に一行全員による激しい動きの円舞となって繰り広げられることで表象される。
 ダンカン王殺害の場面では、幻の短剣のシーンは無く、マクベス夫人が泥酔した王警護の兵士の短剣をダンカンの部屋に用意し、その短剣もマクベスは殺害後に持ってくるのではなく現場に残したままで、夫人はその事で夫を叱咤し、しり込みする夫を後に、自分でその短剣を警護の者に握らせに行く。
 マクベスがダンカンの死体を抱きかかえて嘆き悲しむ場面は、マクベス夫人が死んだとき、同じように彼女の死を見つめて悲しむ姿として再現されることになる。
 ダンカン王の喪が明け、マクベスが王となったことを祝う祝宴の場面も、ダンカン王一行が訪れた時のように円舞で表象されるが、バンクオーの亡霊が登場する場面では貴族たちの姿はなく、マクベスと夫人の二人だけとなっていた。
 マクベス夫人が夜中に彷徨する場面を目撃するのは医師と侍女ではなくマクベスその人であり、彼はそのまま夫人の死まで見つめることになる。
 この場面では夫人は燭台を持つこともなく登場するが、短剣をはじめこれらの小道具類は、全篇通して一切手にされることはなく、戦闘場面や、マクベスとマクダフの一騎打ちの場面でも剣を手にすることはない。
 その代わりに大活躍するのが、舞台に据え付けられた城門の扉のような4つの大きな回転式のパネルで、マクベスとマクダフが戦う場面では、二人がそれぞれ一つずつパネルを盾のようにして回転させながら、それを軸にして動き回ることで戦いを表象する。
 魔女たちがこのパネルを場面の進行中気忙しく何度も回転させ、その都度登場人物たちが忙しく激しく動き回ることで、舞台は絶えず動いている感じがする。
 この城門の扉のようなパネルは、ダンカンの死、マクベス夫人の死、そして最後のマクベスの死の場面で、大きな役割を果たし、両側のパネルの開閉でその死を可視化させる。
 最後の場面でそのパネルが開かれた時、マクベスの死体とその背後にヘカテの姿があり、パネルが4人の魔女たちによって再び閉じられ、城門の扉が閉じられたようにして魔女たちは後ろ向きであるまま、仮面が正面を向いた姿で舞台は暗転し幕となるが、この終わり方は息詰まるような強烈なインパクトがあった。
 走る舞台全体が主役のような上演であったが、出演は、マクベスに能登剛、マクベス夫人に東演初出演の神野三鈴、バンクオーに豊泉由樹、ダンカン王に俳優座の島英臣が精悍に演じ、マクダフに南保大樹、マルカムに木野雄大、アンガスと門番に星野真広、ヘカテにM.インチン、魔女にG.イオバッセ、A.ナザーロフ、清川翔三、藤本稜太、マクダフ夫人に岸波万里子、ダンカンに戦況を報告する傷ついた兵士にPカンパニーの内田龍磨、他。
 最後に、マクダフ夫人の子供は男のではなく娘とされていたのも小さな相違点であった。
 上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで、2時間35分。

 

翻訳/佐藤史郎、翻案・演出・美術・衣装/ワレリー・ベリャコーヴィッチ、演出補/O・レウシン
3月31日(日)13時30分開演、シアタートラム、チケット:5000円(シニア)
座席:E列(前列から3列目)6番、パンフレット:300円

 

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