高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   板橋演劇センター・第104回公演 『ペリクリーズ』       No. 2019-009

92歳の岡本進之助が三度目のヘリケーナスを演じる

 温かみのある感動的な舞台であった。
 3月に『ペリクリーズ』の公演のあることは前回の公演で早くから知っていたが、ホームページにも詳細が掲載されず公演の日程を知ったのは公演の1週間前であったが、出演者に岡本進之助の名前があがっていたのに驚きと、懐かしさと、再び舞台で会えることに多いなる期待として楽しみであった。
 岡本進之助との舞台の出会いは、1998年1月に、板橋演劇センター公演を初めて観劇する機会を得た東京芸術劇場・小ホールでの『リア王』であった。
 このとき、1927年2月生まれの岡本進之助は71歳を迎える1カ月前で、リア王を演じるのは、87年の初演、93年の再演以来3度目であったという。
 『ペリクリーズ』は板橋演劇センターとしては、94年11月の初演以来、今回は15年ぶり、5度目の上演を数えるが、98年に『リア王』を観劇した時のプログラムでの岡本進之助シェイクスピア作品出演一覧を見ると、『ペリクリーズ』では、初演、再演とも、今回と同じくヘリケーナスを演じている。
 今年92歳を迎えたにもかかわらず、舞台で観る岡本進之助は、声も、所作も、歩く姿もその年齢を感じさせない元気な姿で、そのことにまず驚かされた。
 台詞もしっかり入っていたが、途中、何度か台詞につまずきそうなところがあったものの、年の功というか、豊富な舞台経験というか、むしろそれを芸として乗り越えていたのが却って演技としての面白さを感じさせた。
 この劇の案内役・序詞役として物語の進展を語る詩人ガワーを、小田島雄志訳ソネットをこよなく愛す遠藤栄蔵が演じ、温かみのある台詞回しで堪能させてくれた。
 この劇のハイライト、ペリクリーズとマリーナの再会の場面、そしてその後に続くセーザとの再会の場面は、感動、感動の一語に尽きるが、そのマリーナを演じたのは、今回が初舞台という笠居裕花。また、セーザを演じた藤井円もシェイクスピア劇は今回初めてという、その二人の演技に初々しい新鮮さを感じた。
 セーザとペリクリーズが再会して二人がお互いを認識したとき、二人は距離を置いて、互いに手を差し伸べながら舞台上をゆっくり半周する所作にその感動は頂点に達するかに思えたが、セーザがヘリケーナスに近づいて言葉を交し抱擁する場面では、ヘリケーナスを演じる岡本進之助が涙を流してその喜びを一身に体現したとき、その感動はいやがうえにも高まって、見ている自分までが涙で目が曇らされた。
 マリーナとペリクリーズの再会の喜びの後、ダイアナの夢のお告げでエペソスに向かおうとするとき、ミティリーニの太守ライシマカスがマリーナの手を取ろうとするが、マリーナとペリクリーズの二人は手を取り合ったままライシマカスには目もくれないまま通り過ぎていき、ライシマカスが肩透かしを食らう場面は、却ってこの感動場面にユーモアのある温かみを残してくれた。
 今回の公演の出演者は20歳から92歳までの総勢24名で、その内、マリーナ、ライシマカス、女郎屋のおかみ役の3組がダブルキャストとなっていた。
 主演のペリクリーズを演じる木村圭吾は、台詞のメリハリもよく、すがすがしい演技で舞台を盛り上げて好演。
 詩人ガワーを演じた遠藤栄蔵は、他にアンティオカス、サイモニディーズと3役を兼ね、板橋演劇センターの常連組の一人、村上寿は女郎屋の亭主、深澤誠はクリーオン、また道化役を演じる眞藤ヒロシは女衒ボールトを演じた。
 少し変ったキャスティングでは、「どこでもトリオ」として体の体形から、トリオL、M、Sとして松本淳、桑島義明、光永勝典の3人が、海賊や、ペンタポリスの漁師たちなど、場面ごとに役柄を3役も4役もこなし、漫才的な面白さを楽しませてくれたのも特徴の一つであった。
 一人二役でキャスティングを確認するまでまったく見分けられなかったのが、乳母リコリダを演じた早川みきのダイアナへの神々しいまでの見事な変身であった。
 劇中には直接登場しないダイオナイザの娘フィロテンを登場させ、椿菜摘が演じた。
 演出面での工夫の一つ上げるとすれば、悪人に半仮面をかぶらせることで表象したことであろうか。
近親相姦の関係にあるアンティオケのアンンティオカスと王女は初めから半仮面を付けて登場し、タルソのクリーオンとダイオナイザはマリーナ殺害の心を抱いた時点から半仮面をつけ、女郎屋の亭主とおかみ、それに女衒のボールトも悪業についているということで半仮面を付け、太守ライシマカスもマリーナと会う最初の場面では邪な心を抱いているということで半仮面を付けさせていた。
 ロマンス劇としてのロマンの物語性と喜劇性を大いに感じさせる舞台で、出演者全員の、明るい、温かみのこもる舞台を楽しむことが出来た。感謝!感謝!!
 上演時間は、休憩なしで2時間15分。

 

訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
3月2日(土)14時開演、板橋区立文化会館・小ホール

 

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