高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   ナショナル・シアター・ライブ、ルーファス・ノリス演出 
           ロニー・キニア主演 『マクベス』        
No. 2019-007

 アーチ型の大きな橋掛かりが舞台上を貫き、平面の舞台と立体的に場面が展開されていく刺激的な舞台であった。
 反乱軍との戦闘場面から始まり、橋掛かりの上でうつ伏せに倒れ伏した兵士の首を切り落とし、その首を橋掛かりの上に立てられたポールの上にさらす。
 この場面は、最後の場面でマクベスが同じ場所に同じような姿勢で倒れ伏し、マクダフによって首を斬り落とされることで円環構造をなすことが最後になって分かる。
 魔女たちの登場の場では、第1の魔女を黒人女優が演じ、それぞれの魔女たちは一種異様な雰囲気を持っているが、衣裳その他の点は特別なところはない。
 魔女たちが消える場面では、最後の'Fair is foul, and foul is fair. Hover through the fog and filthy air'の台詞が省かれていた(ように思う)。
 1幕3場のマクベスの台詞'So foul and fair a day I have not seen'も同じように聞き取れなかったが、これらの台詞を自分の聴き落としではなく、意識的に外していたとすれば、その意図に興味がわく。
第2、第3の魔女は舞台上を疾風のように旋回して舞台奥へ消えていくが、第1の魔女だけはゆっくりと立ち去っていく。
 1幕2場、瀕死の隊長がダンカン王に戦況を報告する場面では、その役をマクダフが演じ、彼に危機を救われたマルカムは腕に傷を負って包帯でその腕を吊るした姿で登場する。
 衣装は近年の演出がそうであるように現代服で、王を表象する衣装は上下は赤いジャケットとスラックスという姿で、ダンカンも然り、マクベスが王になった時の衣裳も然りで、魔女の呼び出しで登場するバンクオーの子孫が王となって現れる場面でも、彼らはみな赤いジャケットを着ていることで王を表象する。
 登場人物ではマルカムの弟ドナルベインが省かれ、ダンカン王が殺害された後、マルカムは王の死体の前で跪き、イングランドへの逃亡の台詞を語る。
 ダンカン王殺害の前、マクベスの目の前に現れる幻の短剣は実際には舞台上に登場せず、台詞のみでそれを表す。
 一方、ダンカンの亡霊は宴会の席上に実際に登場する。
 台詞の上では最も興味のある'Tomorrow'スピーチの場面では、「トモロゥ、トモロゥ、トモロゥ」と'and'が全く聴き取れないほど一気に語られ、途中からマクベスは夫人が死んでいる居間で彼女の死体を前にして'Out, out, brief candle!'以下の台詞を続ける。
 マクベス夫人は剣で自害しており、全身血まみれの姿である。
 バーナムの森が動く場面は、兵士たちが偽装することもなく、またその台詞もないが、黒みを帯びた帯状の背景装置がそれを表象するだけである。
 小シーワードの登場はなく、ダンカンを演じたスティーブン・ボクサーが老シーワードを演じてマクベスに倒される。
 マクベスとマクダフの戦いの場面では、橋掛かりのポールの上に魔女たちが陣取って戦闘の様子を高みの見物をしている。
 マクダフ夫人の亡霊が現われ、マクベスは'enough', 'enough'と繰り返した後、棒立ちのままマクダフによって刺し殺され、その様子をマルカムも見ている。
 マクダフはそこで倒れ伏したマクベスの死体から首を掻き切り、冒頭の場面と同じ光景が繰り返されることで、歴史が繰り返されることが表象される。
 出演は、主演のマクベスにロリー・キニア、マクベス夫人にアン-マリー・ダフ。
 イギリスは俳優組合との関係もあって、黒人や女優が全体の半分を占めており、その関係もあってロスやフリーアンスを女優が演じ、そのまま女性としての人物造形として演じ、バンクオーやマクダフなどはケヴィン・ハーヴェイ、パトリック・オケインなどの黒人俳優が演じている。
 変ったところでは、マクベスの召使い、門番、第3の暗殺者、シートン、マクダフ夫人に危機を知らせる人物役など同じ衣装で演じているので、そこにこの人物に対する象徴的意味を感じさせられるところがあった。
 実際の舞台の上演時間は、途中20分間の休憩を挟んで 2時間30分。

 

演出/ルーファス・ノリス(ナショナル・シアター芸術監督)
2018年5月10日、ナショナル・シアター・オリヴィエ劇場での公演
2019年2月17日(日)、TOHOシネマズ日比谷ライブ上映、料金:3000円

 

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