S席だといっても2階で、しかも舞台からはほど遠い最後列の席。
しかし、スペクタル的大舞台ということで、全体を見渡すにはよしとして細かい点はがまんすることにする。
大舞台全体をスクリーンにして、2013年にこの劇場で上演された『ヘンリー四世』のハル王子とフォルスタッフを中心にした場面が映像で再現され、その映像がしばらくの間続く。
映像だと思っていた場面が、ハル王子が国王となった就任の行列の場面から突如、フォルスタッフがヘンリー五世となったハル王子から「お前など知らない」と拒否される実際の舞台となって再現される。
6年前にハル王子を演じた松坂桃李がヘンリー五世として、フォルスタッフを演じた吉田鋼太郎は、今回は演出と共にコーラス(説明役)として登場する。
吉田鋼太郎が何を演じるかが期待の一つであったが、コーラス役とはそこまで気が回らなかったものの、この舞台では一番の適役だと思った。
このところ小劇場や朗読劇を中心に観る機会の方が多いので、このように大きな舞台で、しかも舞台から遠く離れた席で観るのは味気なく大味しか感じないだけでなく、ヘンリー五世という人物そのものに演劇的な面白みを感じていないので主演の松坂桃李には気の毒だがヒーロー役にあまり関心を寄せなかったが、カンタベリー大司教を演じた間宮啓行の台詞力の魅力、劇団AUNの沢海陽子のネルおよび王妃イザベルを演じた台詞と演技、同じく劇団AUNの杉本政志のニム役、フルエリンを演じて怪優ぶりを発揮する河内大和、フランス王を演じる横田栄司など脇役陣の台詞力や演技をむしろ楽しんで観て、気持よく聴いた。
戦闘場面では、兵士たちが舞台を上手から下手へと走り抜ける場面が多いのが少し食傷気味で退屈さを感じた。
最後は、ヘンリー五世とフランス王女キャサリンが手を取り合って舞台奥へと退場していくが、それを見送る説明役(コーラス)。ヘンリー役の松坂桃李はいったん奥に引っ込むが出直してきて、舞台前面に立つ説明役の吉田鋼太郎の方に近づいていくかの様子を示すが途中で立ち止まり、二人の距離は遠く離れたまま見つめ合って、再び舞台奥へと消える。
ヘンリーの白い衣装とコーラスの全身真黒な衣装(吉田鋼太郎はフォルスタッフ役の時とは異なりスリムな体型)のコントラストと、二人が演じたハルとフォルスタッフの関係を象徴的に想起させるような、印象的な余韻を残す場面で終わった。
上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで、3時間。
次回予告として、2020年2月に、吉田鋼太郎X阿部寛主演で『ヘンリー八世』の上演が決定。
翻訳/松岡和子、演出/吉田鋼太郎、美術/秋山光洋、照明/原田保、衣装/宮本宣子
2月13日(水)18時30分開演、彩の国さいたま劇場・大ホール
チケット:(S席)9500円、座席:2F・W列12番
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