高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   シアターカンパニー「Smash」星組公演 『マクベス』      No. 2019-002

― 登場人物全員が「狼」となって演じる ―

 特徴を列記すると、
(1) 登場人物全員を「狼」に擬す
(2) 冒頭と終末の演出
(3) 魔女の衣裳と振付
(4) 幻の短剣の場では魔女が「扇子」で表象
(5) マクベスが王座に就くと、全員が首輪をはずして新しい首輪にはめ変え、マクベスが倒された後の最後の場 面では、この首輪も脱ぎ捨てられる
(6) バンクォーの亡霊を舞台上に登場させる
(7) ヘカテの登場はない
(8) 魔女たちの「大釜」は赤いビニール傘で表象し、バーナムの森が動く場面はグリーンのビニール傘を使用。
(9) 「星組」と「月組」の二班構成で一部の役がダブルキャスト (門番、マクダフ夫人、脇役の大半)
開幕と同時に、「狼」の遠吠え。
 全身真黒な衣装に身を包んだ狼に擬した一団が、舞台中心の狼の毛皮を円陣にして取り囲み、その中の一匹(後でダンカン王として登場)が毛皮を取って羽織り、全員が狼の声で歓声を上げ、暗転。
 続いて登場する魔女たちの衣装はアゲハチョウのようで、藤間流の藤間克貴が指導した魔女たちの所作は美しい蝶の舞のよう、その顔や表情も魔女のおどろおどろしさはなく、むしろ美しく妖艶と言える。
 『マクベス』では幻影が登場する場面が3つあるが、その最初である「幻の短剣」の場面では、魔女が舞踊の所作で「扇子」を差し出すことで幻の短剣を表象しており、これまでにない斬新な演出であった。
 次に登場するバンクォーの亡霊も、舞台に実際に登場させる演出とそうでない演出の2通りあるが、この演出では実際にバンクォーの亡霊を椅子に座らせて登場させた。
魔女たちの大釜の場面では、バンクォーの子孫たちが3人魔女たちと入れ替わって、大釜に使用された赤いビニール傘をさして登場し、バンクォーの亡霊がその3人を指さす形で登場する。
 大釜のシーンでは原作ではヘカテの登場があるが、カットがほとんどないこの演出でもその登場は省かれていた。
 バーナムの森が動く場面では、マルコムの軍勢が全員、グリーンのビニール傘で身を隠して登場するが、この演出は、2013年にシアターコクーンで上演された長塚圭史演出の『マクベス』で観客がいっせいに緑色のビニール傘を広げるという壮観な場面を思い出させた。
 総勢31名出演で、主演級の登場人物を以外では「星組」と「月組」でキャストの入れ替わりが一部あり、自分が観たのは「星組」の方であったが、門番役を女優の佐藤由美子が演じ、女優に演じさせたことが注目された。
 「月組」でも門番役は魔女1を演じる神谷祐理恵が魔女と門番の二役を演じるキャステイングになっている。
 最後の場面では、マクダフがマクベスの首を血みどろになった白い布に包んで登場するが、マルコムの台詞が終わった後、一人の少年(姿は少年だが演じるのは少女)が、マクベスの首を包んだ布袋を持って舞台中央に置く。
 その場の全員がこれまで付けていた首輪を首の布袋の上や周囲に脱ぎ棄て、冒頭の場面の様に全員が円陣の形で狼の遠吠えを発して幕となる。
 この少年、あるいはこの少女が何を表象しているのかが自分にはつかめなかったのが残念。
 主だった出演は、マクベスに北村真一郎、マクベス夫人に國立幸、ダンカンと老シーワードに金純樹、バンクォーに石原智彦、マクダフに大川敦司、3人の魔女は、神谷祐理恵、新藤真耶、望月寛子。
 上演時間は、『マクベス』としては比較的長く、途中休憩10分を挟んで、3時間。

 

訳/松岡和子、演出/山下晃彦
1月19日(土)13時開演、シアター代官山、チケット:3500円、全席自由

 

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