高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   SAYNK第8回日英朗読劇 『マクベス』           No. 2019-001
 

朗読劇上演の前のSAYNK代表の瀬沼達也による30分間の講義では、まずチラシの説明から始まった。
昨年12月の関東学院大学英語劇『マクベス』の演出主幹としてそのチラシ作成者に、『マクベス』の血のイメージ、短剣、魔女、王冠、そして死せるダンカン王を取り入れることを要求し、今回のSAYNKのチラシにも別のデザイナーに同じ内容を要求したが全く異なるイメージのチラシとなったことを実物で示した。
その言わんとするところは、演出者のコンセプトが同じであっても表現者によって全く異なるものとなるということであるが、関東学院大学とSAYNKの両方で演出を担当し、キャストの制約からまったく異なった形になる、ということであった。
関東学院大学の英語劇は入院中で残念ながら見ることができなかったが、瀬沼氏の説明によると、出演者は10人で、しかも女性は一人であったため魔女役に苦慮されたということであるが、反面、その制約によって新たな工夫を思いつかれ、それを演出に生かすという効果があったということも合わせて語られた。
講義では、そのような演出者のコンセプトと苦労話を興味深く聞かせてもらった。
本番の朗読劇では、100分の上演時間が30分も延長となって少し間延びしてしまったが、一つには正月という時期の問題(制約)もあって全員での練習時間、リハーサルの時間が取れなかったことが一番の原因かと思われる。
出演者は関東学院大学の英語劇より少ないわずか7名で、しかも男性は2人であったが、今回のキャステイングで最も効果的だと思ったのは、マクベス夫人を前半部で池上由紀子、後半部で関谷啓子の二人に分けたところにあった。
マクベス夫人は、最初は夫を叱咤激励し夫を引っ張っていく強い女性であるが、ある時点から夫のマクベスが自立し強くなっていき、マクベスとの距離が出来ていくことによって心の病に蝕まれていくようになる。
夫人役を二人にする事でそのことを表象化することが可能となって可視化されるという効果が見事に出ていたと思う。
特に後半部で関谷啓子が演じた夢遊病状態のマクベス夫人の朗読演技は、朗読を超えた素晴らしさがあった。
今回は人数が少ないことと男性が2人ということで、日本語での解説役を務める序詞役を増留俊樹がダンカン役と共に務め、また、門番役では唯一翻訳による朗読で演じ、そのキャラクターを十二分に楽しませてくれた。
主宰者である瀬沼達也は、主演のマクベスほか、マルコム、医者役など、膨大な台詞量をひとりで多く受け持って、さすがに少し台詞を嚙む場面も見受けられたが、台詞の表現力は言うまでもないことだが、今回特に目を引いたのが手の所作で、手の動きが台詞を語っているかのような秀逸さを感じた。
SAYNK第6回公演の『ハムレット』も同じく7名の出演者であったが、この時のハムレットは、今回のマクベス夫人のように前半部を若い井上寛斗、後半部を瀬沼達也というように二人に分けて演じていたが、今回もマクベスを二人で演じ分けられていたらもっと豊かな彩色となっていたかと思うが、それは無い物ねだりでしかないだろう。
順序が逆になってしまったが、冒頭の魔女が登場する場面では、第1の魔女を今回初登場の舟木海、第2の魔女を同じく初出演の池上由紀子、第3の魔女を関谷啓子が演じ、なかでも第1の魔女を演じた舟木海の演技、台詞回しはその役を十二分に楽しみ堪能している感じが強く伝わってきた。
他の出演者としては、YSG(横浜シェイクスピアグループ)ではお馴染みの飯田綾乃が今回は地味な役回りで出演しており、また、ゲスト出演として深森らえるがレノックスほかを演じた。
出演者全員の英語の発声はもちろんであるが、表現力などすばらしいだけでなく、演技力もすぐれ、何よりも熱い熱意が伝わってくるのがこのSAYNKの大いなる特徴と言ってもよく、それが観客としての観る・聴く楽しみとなっている。
10年という長丁場でシェイクスピア全作品を上演しようとするだけに、メンバーもさまざまに入れ替えあっていくことであろうが、それもまた一つの楽しみである。
最後になったが特筆すべきこととして、音響・効果音(飯田綾乃が担当)の使い方が秀逸であっただけでなく、衣装や小道具の工夫も朗読劇を超えたもので、本格的な舞台劇を感じさせるものであった。

 

レクチャー講師・演出/瀬沼達也、使用テキスト/大修館シェイクスピア双書『マクベス』
共催/シェイクスピアを愛する愉快な仲間(SAYNK)・横浜山手読書会
1月5日(土)14時開演、神奈川近代文学館・ホール


>> 目次へ