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2019年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」

●2019年のシェイクスピア劇回顧 -『マクベス』三昧の年-

 2019年のシェイクスピア劇は、自分にとって『マクベス』の年であった。57本の観劇日記のうち、9本が『マクベス』とその関連劇であった。観劇順にみると、

1. シェイクスピア劇を愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)による日英語朗読劇 (1月)
2. シアターカンパニーSmash公演、山下晃彦演出 (1月)
3. 『十文字セツ子の四畳半のマクベス夫人と幽霊ピアニスト』、北村菁子上演台本・主演 (3月)
4. 劇団東演60周年記念公演、ベリャコーヴィッチ翻案・演出による『マクベス』 (3月)
5. 劇団現代古典主義公演公演、夏目桐利作・演出 『MACBETHS』 (4月)
6. THEATER MOMENT公演、『#マクベス』、佐川大輔構成・演出 (5月)
7. ワンツーワークス公演、男女逆転『マクベス』、古城十忍上演台本・演出 (6月)
8. シェイクスピア・シアター公演、吉沢希梨のマクベス夫人、出口典雄演出 (11月)
9. 若い演奏家のためのプロジェクト、演劇Xオペラ、ヴェルディ作曲の『マクベス』 斉藤祐一上演台本 (11月)
   

●私が選んだ2019年のベスト5 (上演順)

 再演が2作含まれるが、いずれも前回と異なる面をもっているので新作扱いとして選んだ。

1. 東京シェイクスピア・カンパニー公演、奥泉光作・江戸馨演出、『喜劇♡ロミオとジュリエット』 (2月)
2012年2月に『無限遠点』のタイトルで上演され、今回はタイトルとキャストを一部入れ替えての上演。喜劇というより一種の風刺劇、ダンテの『神曲』に通じる「コメディ」を感じさせるストーリーの面白さと、出演者のキャラクターがにじみ出る演技に心温まるものを感じ、久しぶりの再演を満喫させてもらった。
2. 劇団東演60周年記念公演、ベリャコーヴィッチ演出、『マクベス』 (3月)
2016年12月に急逝したワレリー・ベリャコーヴィッチの遺作となった『マクベス』、劇団東演創立60周年を記念しての公演は、重厚ながらも動きの速い、刺激的な舞台であった。走る舞台全体が主役のような上演であったが、出演は、マクベスに能登剛、マクベス夫人に東演初出演の神野三鈴、バンクオーに豊泉由樹、ダンカン王に俳優座の島英臣が精悍に演じた。
3. 中国国家話劇院来日公演、王暁鷹演出、『理査三世(リチャード三世)』 (4月)
2012年のロンドンオリンピックの文化プログラムの一つ「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」で、グローブ座で初演された中国国家話劇院の『リチャード三世』を、今回豊島区の日中韓文化交流の「舞台芸術」部門のスペシャル事業として招聘されての公演。リチャード三世を演じる張皓越はイケメンで、その容姿も特別な奇形を示すこともなく、普通の人物として造形されていた。
4. カクシンハン第13回公演、『薔薇戦争』(『リチャード三世』&『ヘンリー六世』三部作)、木村龍之介演出 (7月)
『薔薇戦争』は3年前の2016年5月にも同じシアター風姿花伝で上演されており今回2度目であるが、演出の挨拶文によると「新作」となっている。観る方も相当に疲れたが、演じる方も、長時間、しかも一人何役もこなし、疲れは相当のものだろうが、圧巻であった。
5. 明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)公演、『ローマ英雄伝』 (11月)
第一部 『ジュリアス・シーザー』、第二部 『アントニーとクレオパトラ』の二部構成
その華やかさと豪華さで商業演劇にも劣らないスケールと迫力、しかも商業演劇にない純真さがまぶしく輝く明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)公演。スケールの大きさとともに、秀逸な人物造形を堪能させてくれた大舞台であった。
   
  ベスト5としているために一つだけ選択に迷った作品に、串田和美演出の『K テンペスト2019』(5月)がある。寸評として、2017年3月、神奈川芸術劇場での再演以来、再々演の公演。「前回との変容と進化(深化)と、幻想的音楽を十二分に楽しんだ。」と観劇日記の結びにある。
   

●特別賞

1. 板橋演劇センターNo.104公演、遠藤栄蔵演出、『ペリクリーズ』 (3月)で、ヘリケイナス、No.105公演、『冬物語』(9月)で羊飼いを演じた92歳の岡本進之助に、元気溌剌、特別演技賞。
2. MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン第4回公演、『ローマとんでも英雄伝―もう一つのローマ英雄伝』(9月)で、『ジュリアス・シーザー』と『アントニーとクレオパトラ』をオリジナルのパロディと坪内逍遥訳を潤色してまったくの創作劇として一つの作品にまとめあげ、11月のMSP本公演の前奏曲上演として、特別賞。
3. 関東学院大学シェイクスピア英語劇・第68回公演(12月)で、46年間演出を務めてきた瀬沼達也の最後の演出、斬新で思いのこもった『十二夜』の演出に「特別演出賞」と、それに応えた学生たちに「精励賞」。
4. 無名塾稽古場公演、『シェイクスピアの言葉を泳ぐ』(12月)、『マクベス』『ハムレット』『リア王』『ロミオとジュリエット』の4つの悲劇を一つにまとめて成した台本作成と演出をした山崎清介に「特別台本・演出賞」。
5. 劇団フライングステージ公演、自由奔放ながらも原作に忠実な関根信一作・演出の『贋作・から騒ぎ』(12月)に、「学芸会・特別贋作賞」。
   
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