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  第10回シューレ大学演劇プログラム演劇公演 『テンペスト』     No. 2018-062

~江戸の世に、恨みの風、赦しの風が吹き渡る~

 シェイクスピアの原作『テンペスト』を、「謀りの舞台をイタリアから江戸の大奥に置き換え、手繕いの和服の衣裳、歌舞伎の隈取、妖怪の飛び道具も歌舞伎由来のものを使います。歌あり、狭い劇場を広く見せる仕掛けありと、この10回に渡るシューレ大学演劇プロジェクトの総決算ともいえる芝居」というチラシの言葉に、今年最後の観劇に期待をいっぱいにして、小雨模様の中を出かけていった。
 シューレ大学特設シアターは、都営大江戸線の若松河田駅から徒歩5分程度の住宅地の一角にあり、いわゆる「大学」という雰囲気とは全く異なる。
 チラシによると、シューレ大学は「1999年にフリースクール東京シューレを母体に設立され、知る・表現するということを自分のスタイルで進めることで、自分とは何者かを問い、自分の生き方を創り出すことを模索する場」となっており、アドバイザーに平田オリザや上野千鶴子らがいる。
 これまでシューレ大学演劇プロジェクトの定期公演では新作を好演してきたが、10回目の節目を迎えるに当たって、今回初めてこの『テンペスト』を再演することになったのは、前回最善を尽くせなかった悔いのリベンジともいうべきもので、脚本に手を入れ、登場人物の数も構成も変え、美術も一新したという。
 登場人物はわずか6名で、プロスペローに相当するのは将軍の御台所菊姫、ミランダに当たるのは弥陀王と娘から息子に変わっており、対するナポリ王アロンゾ―は京都御所の女帝亜絽曽(アロソ)、そしてその息子ファーディナンドが娘の筆姫に変わっており、プロスペローの弟アントーニオは、菊姫の妹杜姫となっており、他にはエアリエルに相当する菊姫の僕、枝里亜丸(エリアマル)た登場し、エアリエルを除いて原作の登場人物の性別が逆になっている。
 開演冒頭、海上の嵐の場面は、水夫と水夫長の声だけで演じられ、その嵐を引き起こした菊姫が、舞台中央で見事な声で朗々とオペラを唄うところから始まる。
 初演では、シェイクスピアの膨大な台詞の量に悪戦苦闘し、通し稽古も本公演の前日のゲネプロでやっとできた状態だったということであるが、その時の状態は知る由もないが、この舞台ではそれなりに台詞をこなしていたものの、ただ全体的には台詞の発声に退屈さを感じざるを得なかったというのが正直な感想である。
 しかし、チラシのうたい文句にあるように、歌舞伎の隈取がされたエアリエルが杜姫と亜絽曽に仕掛けの蜘蛛の糸のようなものを放出する場面などは見ものであった。
 エアリエルは自由を望んで解放されることを喜ぶのであるが、この舞台での枝里亜丸はいつまでも菊姫に付き従っていたいような気持を感じさせるものがあった。
 エアリエルが魔法を使って御馳走を出す場面では、ホリゾントにその御馳走の映像が映し出されるが、御馳走を準備する黒い妖怪のような姿は愛嬌があって可愛らしく、アフタートークで、質問に答えた菊姫役の山本朝子の作品であることが明かされた。
 前日の昼夜の公演では、山本朝子と山本菜々子の実際の姉妹が菊姫と杜姫をダブルキャストで交互に演じ、自分が観た当日は、妹の山本朝子が菊姫で姉の山本菜々子が杜姫役を演じた。
 弥陀王には長畑洋、女帝亜絽曽を松川明日美、亜絽曽の娘筆姫には脊尾花野、枝里亜丸には小池拓。
観客層も、普通の小劇場とは少し異なった感じであった。
 上演時間、1時間40分。
 終演後のアフタートークは、脚本・演出の朝倉景樹の司会進行で、ゲストに劇団青年団の俳優山内健司を招き、彼の観劇感想と、山本朝子と山本菜々子を交えてのトークと、最後に観客からの質問に答える形で行われた。
 なお、シューレ大学のOGである山本菜々子と松川明日美は、2016年3月に、シューレ大学で学んだ共同制作のやり方を活かしながら、シンプルな舞台設定ながらも、その中で人間が活きる演劇を目指して「劇団ふきだし」を設立していることがチラシに記されている。
 帰り際に、係の学生さんから観客全員にお土産をいただいたが、そのお土産に添付されていた言葉をそのままここに再録する。
 <シェイクスピアは言うまでも無くイギリスを代表する劇作家です。そのイギリスを代表する飲み物と言えば紅茶です。この紅茶は先月インドに赴いたメンバーがこの日のために買ってきたものです。また、今回はご覧頂いたように舞台を江戸に移しました。三代将軍家光の代理で京都に赴いた松平伊豆守が京都で和菓子の求肥を食べ気に入り、京都から菓子司を江戸に招いたと云われています。いささか強引ではありますが、紅茶と学生の手作りの和菓子をひと時のお供にというささやかな、お運びへの御礼として差し上げます。シューレ大学演劇プロジェクト一同>
 感謝!!(ありがたく、美味しく 召し上がらせていただきました)

 

脚本・演出/朝倉景樹
12月23日(日)14時開演、新宿区・シューレ大学特設シアター、料金:1000円

 

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