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  鮭スペアレ本公演、鮭スペアレ版 『まくべす』           No. 2018-061

 今回がこの劇団の第3回目の本公演で、この劇団の公演を初めて観たのが昨年10月の第2回本公演『ハムレット』で、それから1年経っての本公演だが、そんなに時間が経ったとは感じられなかった。
 坪内逍遥訳での上演ということで最初関心を抱いたのが、その上演形式において「ウタイ」と「コンテンポラリー能」との組み合わせを特徴として掲げていたことにも興味を感じていた。
今回の上演形式も同じくこの様式を引き継いでおり、魔女役(逍遥訳では「妖1、2、3」となる」を中心に 「ウタイ」を演じさせ、登場人物の所作においてコンテンポラリー能を取り入れている。
 坪内逍遥訳の台詞力や、様式としての「ウタイ」や「能」の所作にはまだ様式(メソッド)として達しておらず、まだ生煮えの感じであるが、その取り組み姿勢には期待したいところが多々ある。
尺八の演奏で始まる開演冒頭の場面では、女子高生の制服の衣装を着た中込遊里演じるヘカチーが、真っ赤な木魚をポクポクと叩いており、そこへマクベスとバンクヲーの二人が登場し、魔女たちは、ヘカチーとともに「ウタイ」となって「きれいは汚い」以下、マクベスへの予言の台詞を語る。
 マクベス夫人がマクベスからの手紙を読む場面では、台詞の多くを「ウタイ」が語り、夫人はそれをコンテンポラリー能の所作で演じる。
 マクベス夫人のコンテンポラリー能としての所作は、操り人形、もしくはからくり人形のような動きで演じられる。
 この劇団は女性を中心としていて、前回の『ハムレット』でも男優は一人であったが、今回もダンカン王とマルカムの二役を演じる若尾颯太一人が男性で、あとは、マクベス、バンクヲー、それに妖1,2,3を兼ねるマクダフ、ロッス、アンガス役など、すべて女優によって演じられる。
 バンクヲーを殺害する暗殺者たちは、妖1、2、3役が、レオタード風の衣装で演じ、フリーアンスは乳母車の中の人形で代用されていた。
 バーナムの森が動く場面としての偽装は、短冊状のビニールで作り上げた蓑状のものをまとって登場する。
 最後の場面では、マクダッフが持つ槍の先にマクベスの首が刺し貫かれ、マクベスは首から下を黒い大きな布で隠し、その状態のまま、「明日が来たり、明日が去り、又来たり、又去って」の台詞が繰り返され、幕となる。
 この台詞は、マクベス夫人がなくなった時一度マクベスによって語られるが、その時にはヘカチーをはじめとしたウタイによって唱和され、ウタイはギリシア悲劇のコロスの役としても感じられるものであった。
 出演は、マクベスに清水いつ鹿、マクベス夫人に宮川麻理子、バンクヲーとウタイに喜田ゆかり、ダンカン王・マルカムの二役に若尾颯太、マクダッフや妖1などに上埜すみれ、ロッスや妖2に青田夏海、アンガスや妖3に箕浦紀紗、そして魔女ヘカチーに中込遊里。
 音楽の生演奏に、バイオリン/中條日菜子、尺八/酒井将義、ハープ/横濱りい子、馬頭琴/フルハシユミコ。
 上演時間は1時間20分と短く、全体が凝縮されての上演。

 

訳/坪内逍遥、構成・演出/中込遊里、音楽/五十部裕明
12月17日(月)14時開演、北千住Buoy、チケット:3000円、全席自由

 

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