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  タイプスプロデュース公演、旺なつき主演・女優だけの『リア王』    No. 2018-058

 この観劇の前日まで入院していて、本来はまだ入院しているところであったが退院許可が出たため、一度キャンセルしていた予約を再度申し込みたものの満席であったが、キャンセルが出て観劇することが出来た。
 旺なつき主演で女優だけによる『リア王』ということで、大きな期待と、反面、これまで自分が観てきた女優だけによるシェイクスピア劇や、実力派と言われる女優が演じるリア王に満足したことがないので、その期待外れの不安の両方を抱えて観劇した。
 女優だけによる『リア王』は、2013年にシェイクスピア・シアターが文学座の奥山美代子を主演に公演しているが、その時の感想でも不満を残している。
 タイプスによる『リア王』はこれまで何度も観てきたような印象を持っていたが、観劇日記を紐解くと、自分の記録にあるのは2009年のタイプス10周年記念(実は、この年、劇団としてのタイプスは解散しており、プロデュース公演となって再出発)と、2014年の新本一真が主演のリア王を演じた15周年記念の2回で、今回が3度目の『リア王』観劇となっている。
 今回の主演の旺なつきは、メジャーリーグ公演・栗田芳宏演出、安寿ミラ主演の『ハムレット』で、初演と再演でホレイショー役を演じた印象が残っていて期待度が大きく、彼女のイメージとしてのリア王に凄みを感じることが出来るのではないかという期待感と、彼女の持つ華麗さの方が優るのではないかという危惧もあった。
 また、主演以外でもそうそうたる実力派女優を布陣してのキャスティングで、演出のパク・バンイルの意気込みを強く感じさせるものがあって、今回の上演には最初から期待を非常に強く持っていて、退院翌日で観劇の体力への自信があまりなかったものの、見逃したくない気持で一杯であった。
 自分の観劇当日は千秋楽ということもあってか満席、自由席で好みの席を確保のために開場前から長い列ができて熱気で充ちていた。自分は、いつものように最前列の中央部をゲットできた。
 開演と共に登場するのは、テアトル・エコー所属の杉村理加演じるグロスター伯と、元宝塚宙組の大峯麻友演じるケント伯、そして文学座の高橋紀恵が端正な見目麗しい青年として演じるグロスター伯の庶子エドマンド。
 舞台構造は、これまでの『リア王』上恵では目にした事がない2段構造で、2階の中央には王の逆座が据えられ、リアはその高い玉座に座し、階下の上手側奥から正面への順にゴネリル、リーガン、コーディリア、下手側奥からオールバニ公、コーンウォール公、ケント伯とグロスター伯が控えており、王座の背後のホリゾントにはイングランドを3分割した地図が描かれている。
 旺なつきのリア王は、予想した通り、老醜というより華麗さの方が勝って台詞も若々しく感じられたが、リアがコーディリアを抱いて登場する最後の場面では、さすがに大柄な君島久子を抱きかかえるのは無理と見え、コーディリアの衣装だけを抱えて登場することで代用していた。
 この舞台で最も印象的に感じたのは、白い衣装のリアが階段の半ばで両手を伸ばした状態で、あたかも十字形を示すような形で息絶えた神々しいまでの旺なつきの姿であった。
 他の主な出演者は、ゴネリルに俳優座の早野ゆかり、リーガンに松本稽古、オールバニ公に國友美鈴、コーンウォール公に森下友香、エドガーに青年座映画放送所属の南谷朝子、道化に田中香子、オズワルドにくじらなど、総勢18名で、主演以外では、エドガーの南谷朝子、オズワルドを演じたくじら、タイプスではお馴染みの森下友香がコーンウォール公を演じ、2014年のタイプス公演の『リア王』でコーディリアと道化の二役を演じた田中香子は、今回は道化のみを演じたが、それぞれ特徴のある演技者として印象に残った。

 

原作/ロバート・グリーン、脚色・演出/夏目桐利
12月2日(日)14時30分開演、劇団現代古典主義アトリエ、チケット:3500円

 

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