シェイクスピアの作品の中でも最も知られていない作品の一つで、内容的にもなじみが薄く、しかも出演者の人数の制約もあって一人が複数の役柄を演じなければならず、そのためどこまで登場人物について分かってもらえるかも気になっていたが、結果は出演者の力量もあって台本構成者の心配を払拭してくれるものであった。
筋の展開上、登場人物もある程度の人数を登場させないと話の内容が分からなくなるため、当初の予定より増やさざるを得なかったが、その登場人物のキャスティングが絶妙であった。
久野壱弘がタイトルロールのヂョン王のみを演じ、その他の出演者は複数の人物を演じたが、高橋正彦が私生児フィリップ(バスタード)とフランス王の2役、皇太后エリーナと枢機卿パンダルフ、それにアンジューの市民を武松洋子、コンスタンスと市民を倉橋秀美、そしてアーサー王子と市民を石井麻衣子が演じた。
軸となるタイトルロールのヂョン王を演じる久野壱弘がこの役だけで通したこともあって、フランス王とバスタードの二役を演じる高橋正彦の台詞を混同することなく聴くことが出来たし、また、武松洋子が皇太后とパンダルフの二役を見事な演技と台詞力で仕分け、皇太后役では、倉橋秀美のコンスタンスとの舌戦を二人が迫真的に演じ、迫力満点であった。
その二人の舌戦バトルは、自分の感想だけでなく、この朗読劇を「寝に来た」と言っていたMさんをして、身を乗り出させるほどであったというので大成功と言えるだろう。
台本構成者としては、狙い通りの効果であったのも、この二人の演技台詞力に負うところ大であった。
アンジューの市民を、倉橋秀美、武松洋子、それに石井麻衣子の3人で、コロス的な効果を生み出していたのも演出の妙であった。
登場人物の制約もあって、当初の台本構成過程ではこの市民の登場はなかったのであるが、話の展開上欠くことが出来なくなり、今回の演出のように複数の演技を前提にして加えただけに、3人のコロス的な演技は想像を超えた効果を出してくれた。
上演時間は、ちょうど1時間であった。
翻訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木 登、演出/高橋正彦
11月21日(水)18時30分開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン
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