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  第15回明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)公演
                 『ヴェニスの商人』        
No. 2018-054

 先行予約抽選でAブロックを確保できていたので、Dブロックの招待席ではなく、いつものように開演1時間半前から並んで、Aブロック最前列中央部の席をゲットした。
 このプロジェクトの参加総人数は180名を超えるということで、観客だけでなく主催者側でも人気の的となっているのが伺える。
 公演の演目は当年度が上演される時にはすでに翌年度の演目が決められているが、それを決めるのは学生たちではなく、当プロジェクトの総合コーディネーターである井上優文学部准教授で、大勢の出演希望者をできるだけ多く参加できるよう演目を選定するというご苦労をされていることであるが、そのことが却って2つの劇を結び合わせるなどという面白い発想とつながるという効果を生み出しているのも間違いないところである。
 今年は単独作品であるものの、出演者が多いという利点をフルに活用した演出となって、大いに楽しいものとなっている。
 ポーシャの求婚者となって登場するモロッコ王やアラゴン王は、ともに王様お付きの従者を4,5、名伴って登場するが、これなどもアイデアとしても面白いだけでなく、普通に考えても王様が一人でやって来るというよりリアルに感じさせる。ついでに付け加えるならば、アラゴン王が母親同伴で来るという原作にはない脚色も面白く、楽しいものであった。
 また、ポーシャにもネリッサの外に数名の侍女がいるのもごく自然な雰囲気で、舞台を華やかにした。
 人肉裁判として有名な場面の法廷の場も、出演者が多いだけにリアルな雰囲気で迫ってくる。
 開演直後の冒頭場面で出演者全員が仮面をかぶって登場する舞踏会のダンスは、総勢29名という利点を生かした華々しさで、冒頭から惹きつけるという効果だけでなく、全員が退場した後、アントーニオの憂鬱に対して対照的な雰囲気を表していて効果的であった。
 皆が楽しんでいたのにアントーニオ一人だけが憂鬱な気分であるが、彼の憂鬱は、バッサーニオが彼に相談してくる内容についての予感からくる懸念―バッサーニオが自分の手の届かない所へ行ってしまうのではないか―のように感じられた。
 この予感は、終幕の場で、まるで忘れたかのようにアントーニオを一人残して、バッサーニオがポーシャと二人仲睦まじく邸内に入っていく姿を見送る彼の表情から裏付けられたような気がした。
 最近の演出では、この最後の場面のひねりをどうするかが一つの見どころともなっていると思うが、それはこの一人舞台に残されたアントーニオの扱いにも表れている。
 この舞台の最後の場面は、冒頭部と同じように全員が登場してきてダンスをするが、舞台がフェードアウトすると、舞台上手にはシャイロック、下手にアントーニオがそれぞれ孤独な表情で、スポットライトで浮かび上がらされ、幕となる。
 アントーニオを演じた西山斗真君とシャイロックを演じた安井秀人君がカーテンコールの代表をしていたのに見られるように、今回の演出ではこの二人が主役(アントーニオはタイトルロールでもある)ということを演技の面でも強く印象付けてくれたが、西山君は2年生で昨年も出演し、安井君は3年生で一昨年、昨年に続く出演である。
 ランスロットの父親ゴボー役を、母親に変えたのも出演者の都合(女性が多い)もあるかと思うが、違った面白さがあった。このゴボーを演じたのは、4年連続出演してきた小川結子さん、4年生なので今回が最後の舞台となるだろうが、自分でも楽しめたのではないかと思う(見ていても楽しんでいる様子がうかがえた)。
 ポーシャを演じた荒田樹季さんも4年生で昨年に続いての出演、ポーシャの侍女ネリッサ役の加藤彩さんも4年生で、彼女もこのプロジェクトの常連組の一人で、今年が最後かと思うと淋しい気持がする。
 バッサーニオを演じた家入健都君は1年生だが、演技の表情もすばらしく、次からも出演が楽しみな一人。
印象に残っている点では、今回3度目の出演のサレーリオを演じた武藤雄太君(3年生)もその一人である。
 毎年のように出演している人がこのように沢山いるが、今回、演出に回った4年生の山崎心さんも昨年までは出演者の一人として活躍されていた。
 このプロジェクトの第7回(『夏の夜の夢』)から毎年観続けてきているが、このように出演者との再会も楽しみの一つになっている。
 学生たちによる翻訳も、いつものことながら素晴らしく、耳に素直に入ってくる。
 衣装や、舞台装置、それに舞台上での演奏者たちの生演奏、素晴らしい舞台にぜいたくなほど堪能させてもらった。
 上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで2時間45分。
 来年度は、ローマ二部作として『ジュリアス・シーザー』と『アントニーとクレオパトラ』の組み合わせで、着想もよく、想像するだけでも今から楽しみである。


翻訳/コラプターズ(学生翻訳チーム)、プロデューサー/関口果穂(文2)
演出/山崎 心(文4)、監修/青木 豪
11月11日(日)12時開演、明治大学駿河台キャンパス
アカデミーコモン3階 アカデミーホール、座席:(Aブロック)1列18番

 

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