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  劇団ひまわり公演 『ロミオとジュリエット』          No. 2018-051

― 演出の栗田芳宏がロミオを演じる ―

 チラシではA、B、C、Dのダブル、トリプルキャストになっていて、C、Dのキャスティングのみが栗田芳宏出演となっていたので自分が観劇可能な日程でDバージョンを選んだが、当日もらったプログラムで、栗田芳宏は、なんとロミオ役となっていたが、自分の中ではロレンス神父役としてのイメージを描いていたので、一瞬驚きと戸惑いを感じてしまった。
 栗田芳宏の演技と台詞回しには完成されたストイックな型があり、そこが魅力であるのだが、ある意味では意表を突いた思い切ったキャスティングであるものの、全体のバランスを見た時、結果的には彼が突出したものとなって、自分には彼の印象だけが強く残ってしまった。
 ロミオと同じ世代のベンヴォ―リオやマキューシオなどに対して教師的な響きに聞こえ、ロレンス神父に対しても彼の方が上位者のように感じる風格、重みがあり、ロミオには、もっと若さの不安定さがあった方がいいのではないかと思った。
 ジュリエットとのバルコニーシーンでも、栗田の台詞まわしは哲学的瞑想の深みを感じてしまい、ロマンスよりも教師対生徒、あるいは親娘の関係のように感じた(それは年齢的な差から生まれたものではない、もっと根元的なところで)。
 今回の演出では、出演者全員の衣装がすべて黒で統一されていて、それが劇全体をストイックに統制された印象を感じさせたが、ジュリエット役だけが、鮮明な赤色の上着を身につけていることで、明るさの安堵感と、象徴性を感じた。
 上演時間が休憩なしで2時間ということもあって、内容的には凝縮された展開であっただけでなく、最後の場面はかなり原作とは異なる演出であった。
 キャピューレット家の納骨堂の場面で、パリスの登場もロレンス神父の登場もなく、ロミオはジュリエットの仮死状態のそばで毒の入った盃を飲み干して死に、その直後にジュリエットははじかれたようにして飛び起き、ロミオの死を見て自分も短剣で胸を刺して死ぬ。
 公爵、神父、キャピューレット夫妻、そしてモンタギュー夫妻が登場(原作ではモンタギュー夫人は亡くなったことになっている)し、公爵の台詞と神父の台詞のみで、両家の和解の台詞もないまま彼らは静かに退場し、最後はロミオとジュリエットが静かに横たわっている場面にスポットライトが当てられ、幕が引かれる。
 黒の衣装に表象されるように、全体がストイックな展開で、凝縮された濃密な舞台であった。
 栗田の相手役ジュリエットを永瀬千裕が好演。

 

訳・スーパーバイザー/松岡和子、演出/栗田芳宏
9月23日(日)16時開演、シアター代官山、チケット:4000円、全席自由

 

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