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  劇団現代古典主義公演 『アントーニオとシャイロック』
         ― 同時進響劇版シェイクスピア"ヴェニスの商人"    
No. 2018-049

 聞き慣れない「同時進響劇」とは、チラシの説明文によると「舞台上を複数場面に分割し、同時間枠で別地点の物語を同時に進行する新演劇。台詞が、舞台上のさまざまな場所から次々に、また、同時に発せられる。 まるでオーケトスラのような演劇」ということで、「オーケストラ劇」とも称している」、と書かれている。
 また、同じチラシの文頭に、脚色・演出の夏目桐利の挨拶文として、「難しく上演時間が長いと敬遠されがちな古典を、予習なく身近にお楽しみいただけますよう、解釈の調整・再構築をし、約70分でお届けします」とある。
 この二つの案内文でこの劇の全体的な性格像の説明が尽くされると思うが、観終わった感想は、見事な再構築、新たな古典の現代版としての発想の面白さであった。
 アントーニオのヴェニス国家元首候補としての演説の場面から始まるが、バッサーニオは、この劇ではアントーニオの異父弟という設定で、アントーニオは父の死で母と継父に見捨てられ、乞食のような生活から拾った小銭で商いを始め、最初に売れたものが自分の靴で、そこから財を築いて大商人となり、選挙演説の中心はキリスト教徒の教えに反する高利貸し業を営むユダヤ人の根絶で、それには自分が最もふさわしいと声高に主張する。
 その演説中に、アントーニオの弟と名乗ってバッサーニオが現われる。彼は父親の財産を放蕩の末使い果たしてしまい、貴族のポーシャと結婚するために3千ダカットを用立てして欲しいと頼み込む。
 はじめのうちアントーニオは、自分が継父から受けた仕打ちもあり、バッサーニオに好意的ではないが、血を分けた弟の為にユダヤ人のシャイロックから金を借りることになる。
 しかし、これはバッサーニオがアントーニオを破滅させようとする悪計であり、彼はシャイロックにその企みの意図を伝える。
 副筋の、シャイロックの娘ジェシカとロレンゾの恋の結末は、ロミオとジュリエットのような終わり方をする。
 ジェシカには家庭教師のイザベラがついており、このイザベラは父親がシャイロックのために破滅させられたことから復讐を企んでいて、ロレンゾからの伝言を真逆の内容で伝え、悲嘆するジェシカに自殺用の毒薬を渡す。
 持ち船が沈没して3千ダカットの返済が出来なくなったアントーニオは、法廷で証文通り、肉1ポンドを切り取られることになる。が、ここではポーシャが裁判官ではなく、裁判官は「声」のみで、ポーシャは夫であるバッサーニオの悪計を知って、彼を法廷に引きずり出す。
 ポーシャによって、バッサーニオは貴族の地位を得るためと、財産目当てでポーシャと結婚したこと、それにアントーニオの破滅も彼が仕組んだことが暴かれるが、バッサーニオは悪あがきを重ね、アントーニオがユダヤ人の金を盗むことで大商人になることが出来たことを暴露する。
 シャイロックはヴェニスの人間の血を流そうとしたことで財産没収の罰を受け、主だった登場人物の全員が悲劇的結末となるが、アントーニオは国家元首に最もふさわしくない人間だが、それでもなおかつ元首になるべき者だとして訴え、シャイロックは金貸しを続けるかのように、金の入った袋をいくつも投げ与える。
 原作とは異なる物語の展開に、次はどうなるかとわくわくするような期待の興奮感を味わいながら観ることが出来た。
 アントーニオには大西輝卓、シャイロックに樽谷佳典、バッサーニオに島田勇矢、ジェシカに田畑恵未、ポーシャに土肥亜由美、イザベラに小藤喜穂など、総勢10名の出演(ポーシャ、イザベラ、ネリッサ役はダブルキャストとなっていた)。


脚色・演出/夏目桐利
9月15日(土)14時30分開演、コフレレリオ新宿シアター、チケット:4000円

 

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