高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   松竹製作・中村芝翫主演 『オセロー』          No. 2018-046
 

開場前で平日のマチネというのに劇場の周辺は開場を待つ人でいっぱい。
歌舞伎、宝塚、ジャニーズなど人気出演者の顔ぶれのせいか、若い女性たちや年配者たち、それも意外と年配のご夫婦のカップルが多いのに少し驚いた。
通常はS席(一等席)で予約を取るのだが、新橋演舞場は初めてでもあり、一見客ではおそらく一等席でも後方の席しか取れないだろうという予測もあって、今回は三階A席で予約したが、舞台は映画館の大スクリーンを想像させる大きさで、全体を見るにはむしろ良い位置で結果オーライであった。
花道は全く見えないのだが2階と3階の左右のバルコニー席にモニターが懸けられていて、花道からの登場の際にはそのモニターに映し出されて様子を見ることが出来る。
舞台上の演技は映画の大スクリーンの画面を見るのと全く同じで、異なるのはアップの場面がないだけであるが、これは用意していた双眼鏡で顔の表情など詳細に見ることでアップと同じ効果を楽しむことが出来た。
11時開演ということで、途中昼食の時間を取るために3幕構成で、第1幕が35分、15分の休憩の後第2幕が60分、その後昼食の為に30分の休憩時間があり、第3幕が85分、全体で3時間45分であった。
第1幕は、ヴェニスの場面で映像を駆使して運河の情景。ゴンドラが何艘も行き交う。
イアーゴーとロダリーゴの会話の場面もゴンドラの中。
これから起こる何事かを予兆させるかのように、柩を前にして泣いている、喪服に包まれた女性が乗ったゴンドラが1艘、そばを行き過ぎる。
イアーゴーたちの乗ったゴンドラがブラバンショーの邸に近づくと、運河の前に大きな邸宅が出現する。
場面の切り替わりとセットは、まさに映画を観ているようである。
原文で1幕3場の元老院の会議の場面の最後、イアーゴーの独白場面では、イアーゴーが会議室に据えられていた大きな地球儀の球体を取って、それを手玉にしながらオセローへの奸計を独白するという趣向を凝らしている。
全体の印象は予想した通り、台詞劇を楽しむというより、舞台装置の豪壮さもあってスペクタル的展開に目を向けさせられ、19世紀のイギリスのスペクタル的シェイクスピア劇のことを想起させた。
この舞台を観たのは幕が開いてから2日目で、今月26日の千穐楽まで長い公演が続くので結末の種明かしをしてしまうのはこれから見る人に先入観を与えてしまうが、この舞台の注目すべき点として省いてしまうわけにはいかない。
原作では、オセローが隠し持っていた短剣で自害した後、ヴェニスの元老ロドヴィーコーの台詞で締め括られるのだが、そこで意外な衝撃的な場面が展開される。
突然、覆面をした一団があっという間に現れ、ロドヴィーコーをはじめ、グラシアーノーなどヴェニスからやってきた貴族の面々とキャシオーやモンターノ―など、そこに居合わせた全員が皆殺しにされてしまう。
あとにはオセローから傷つけられたイアーゴーのみが生き残っているだけで、彼が両手を縛られた不自由な姿勢で、膝で動き回るところで舞台は暗転し幕となる。
この終わり方は,フォーティンブラスの軍隊がホレイショーを殺すベルイマンの『ハムレット』の終わり方を踏襲するかのようで必ずしも初めての手法ではないが、『オセロー』の終わりでこれを見たのは少なからず衝撃的であった。
井上尊晶の演出は、長年蜷川幸雄のもとでシェイクスピア劇の演出を助演してきただけに、至る所にその片鱗を伺わせる舞台演出を垣間見たが、3幕目の後半部ではホリゾントにミラーを用いて観客席を映し出し、舞台上の出演者の反対側の姿をも鏡に映し出すところは、これまでにも蜷川演出で多く観てきたものであった。
出演は、オセローに8代目中村芝翫、デズデモーナに元宝塚のトップスター檀れい、イアーゴーにはジャニーズ事務所の今井翼、ブラバンショーに辻萬長、ヴェニス公爵に田口守、グラシアーノーに廣田高志、ロドヴィーコーに大石継太、キャシオーに石黒英雄、エミリアに前田亜季など。
小劇場での台詞劇の細やかさとは別の、褐色に近い黒塗りのオセローも面相と衣装の変化、対照的な真っ白な衣装で色白のデズデモーナをはじめ、メイク、衣装、舞台装置など、商業演劇としてのスペクタルシェイクスピア劇として一見の価値を見る、観る劇であった。

 

訳/河合祥一郎、演出/井上尊晶、美術/中越 司、照明/原田 保
9月3日(月)11時開演、新橋演舞場
チケット:(三階A席)4500円、座席:3階2列23番

【お詫びと訂正】
出演者名でイアーゴー役を今井翼と記したが、「当初配役されていた今井翼はメニエール病のため稽古が始まる前に降板していて、代役が同じジャニーズ事務所の神山智洋に変更されていた」と読者からご指摘して頂きましたので、ここにご指摘者への感謝と、間違いのお詫びと訂正を謹んでさせていただきます。(9月10日)

 

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