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  シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会(SAYNK)、第7回公演
               日英語朗読劇 『十二夜』         
No. 2018-044

 10年間でシェイクスピア全戯曲の上演を目指して昨年から始まった「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会」(SAYNK)による公演が早くも第7回目を迎え、今回は喜劇の最高峰と言われる『十二夜』を上演。
 喜劇の最高峰と言われるにふさわしい見応え(聴きごたえ)のある熱演であった。
 前回の第6回公演から出演者は公募形式となり、今回の出演者数は7名であった。これまで試行錯誤的なところがあったが、一つの形式が固まりつつあるように感じられた。
 その一つは、日英語朗読ということで当初は英語を主体にしながらも一部日本語の台詞も加えていたのを、本文はすべて英語として、場面ごとの概要と登場人物紹介を日本語で解説するという形式に変化させている。
 しかし、今回気になったのはその日本語のナレーター役のクレジットがなく、どなたが担当しているのか不明であったことである。彼女のナレーションは非常に聴きとりやすく、また内容概説も的確で分かりやすかった。それに、各場面の変化に伴うつなぎの音楽も非常に良かったと思う。
 鑑賞の上で最も参考になるのは「香盤・台詞行数表」の一覧である。
 使用する原文台本の大修館シェイクスピア双書版『十二夜』で総行数2529行のうち台詞カットは450行で、上演での台詞行数は全体の8割に相当する2079行となっている。
 その一覧表でまず気が付いたのは、これまで一人の登場人物を場面によって異なる出演者が演じていたが、今回は一人の登場人物に対しては同じ出演者が演じ続けるということであった。
 また、出演者が複数の登場人物を演じるということで一つの場面にそのダブった登場人物が登場する時の役柄の素早い変化も見どころ、聴きどころとなっていた。
 なかでも、道化のフェステ、執事のマルヴォーリオ、セバスチャン、神父など役柄の最も多いこの会の主宰者である瀬沼達也は、目まぐるしいまでの役柄変化をコミカルに演じ分けて見せ、楽しませてくれた。
 ヴァイオラとセバスチャンの双子の兄妹は、二人が同じような帽子とショール(スカーフ?)を身に付けることで二人が同じ衣装であることを表象しており、その他の一人複数役も、帽子などで人物の変化を表した。
 対照的な人物像を演じさせるなど複数の役柄のキャスティングにも工夫が伺われ、オーシーノ公爵演じる佐々木隆行はフェイビアンを演じ、サー・アンドルーを演じる細貝康太はアントーニオを演じ、同時に登場する場面をうまく変化させて演じた。
 台詞、演技面で最も注目したのは、原文でもヒロインのヴァイオラと匹敵する台詞量の最も多い一人であるサー・トービー役の増留俊樹。
 底抜けに楽しんでいる姿を見事に演じ、また見る者をしても大いに楽しませ、笑わせてくれた。
 この劇のタイトルである十二夜はクリスマス最後の日で、ドンチャン騒ぎの夜であるが、このサー・トービーこと増留俊樹とサー・アンドルーの細貝康太、マルヴォーリオの瀬沼達也、それにオリヴィアの侍女役のマライアを演じる飯田綾乃らが、それにふさわしいハチャメチャな楽しさを味あわせてくれた。
 台詞量、出番も多いヒロインのヴァイオラを演じる遠藤玲奈、オリヴィアを演じる小嶋しのぶ、この二人の英語の台詞力も魅力たっぷりだが、今回は喜劇的登場人物に圧倒されて少しばかり影が薄くなってしまった。
 上演予定時間は120分であったが、今回も時間をオーバーしてしまったが、オーバーしたことより、香盤・行数表で気づいて心配していたことが的中したことだった。
 それは最後の5幕1場はノーカットで全部で419行、つまり今回の上演の台詞量の2割に相当する最も山場の場面であり、それだけにカットできなかったのであろうが、終盤が押し詰まって、ヴァイオラとセバスチャン再会の感動の場面をじっくりと味わうことが出来なかったのが残念である。
 演出者のカットが忍びないという台本作りの気持が察せられるだけに、今後の課題として残る問題だと思う。
 一公演ごとに、進化・深化していっており、今後も一層楽しみである。


講師・演出/瀬沼達也
「シェイクスピアを愛するゆかいな仲間たちの会(SAYNK)」主催
「横浜山手読書会」共催、「横浜シェイクスピアグループ(YSG)」協力
8月26日(日)13時40分開演、神奈川近代文学館ホールにて

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