昨年8月に上演した太宰治作『新ハムレット』に続いて、劇団扉座の横内謙介が1990年に上演した『フォーティンブラス』を、MSPインディーズが並行世界(よこみち)ハムレットシリーズの第二弾として上演。
この作品は扉座(当時は「善人会議」)が1990年の初演の後、95年に(元)スマップの草彅剛が主演してオリジナルスマイルバージョンとして再演された後、2001年に扉座創立20周年記念として『ハムレット』と『フォーティンブラス』二作が連続上演され、その時のキャッチコピーに「どちらを先に観るか、それが問題だ」とあったが、自分はその時この『フォーティンブラス』を先に観ている。
その時の『フォーティンブラス』は、前2回の上演を基に全面改定した決定版ということであったが、今回のMSPバージョンが90年のものなのかどうかは、90年の分は見ていないので分からない。
観劇日記には、『フォーティンブラス』と『ハムレット』は入れ子構造、合わせ鏡としての面白さ、『フォーティンブラス』は『ハムレット』のパロディ化と記してあった。
01年の扉座公演の登場人物は14名だったが、MSP版では10名が登場。
登場人物の主だった違いは、扉座でのクローディアス役の演出家桜田慎一郎役が、女性演出家桜田となって劇中劇ではガートルード役をし、扉座版のガートルード役の菊原美智や、ハムレット役の鈴木正美の付き人役孝明、若い女優良美役が登場しない。
内容的には後半部が扉座の01年版とは少し異なっており、そこがMSPのオリジナリティとしての面白さともなっていた。
扉座版では、フォーティンブラスの父の亡霊の実の息子、オズリック役の俳優岸川和馬が恋人の恵子をめぐってハムレット役の鈴木正美と喧嘩になって役を降り、代わって正美の付き人孝明が演じることになるが、MSP版では正美が薬物に手を出して演出家の桜田から降板させられ、和馬が主役のハムレットを演じることになる。
フォーティンブラスの父の亡霊の和馬の父和春は、生涯脇役一筋で主役を張れず、同じ脇役一筋の古参女優の玉代は父親の愛人であったが、MSP版では和馬の母親役に変えられているのも違いの一つであった。
自分が果たせなかった主役のハムレットを演じ、万雷の拍手を浴びる息子の姿を観て、フォーティンブラスの亡霊は玉代に手を取られて幸せそうに消え去るが、その玉代はひっそりと楽屋の隅で命果てているのを恵子が発見して皆に告げる表情が印象的であった。
この劇は、舞台の上手も下手も知らない人気が落ち目となった映画俳優が舞台に立つことになり、もともとのお笑い喜劇の予定を『ハムレット』に変え、オフィーリア役には舞台は初めてというバラエティー番組の女優を抜擢し、脇役陣が本来の舞台俳優やその願望者という設定になっていて、ハムレット役そのものがパロディ化されデフォルメされていて、バックステージとしての楽屋裏の話を楽しむことが出来るという面白さのある作品であるが、最後を原作とはひとひねり変化させて、和馬が一人万雷の拍手を浴びて終る姿は救われる気がし、非常に良かったと思った。
出演は、主演のフォーティンブラスの父の亡霊に浦田大地が熱演、オズリック役の岸川和馬を西山斗真が好演、自らの風貌を活用して日の出、日の入りの道化を演じて笑わせた墓掘り人の道化役、田野倉信を演じた草野峻平、ハムレット役の大スター鈴木正美に柳沼拓也は激演、オフィーリア役のタレント刈谷ひろみに岡本摩湖、ガートルード役の演出家桜田役に菅野友美、レアティーズ役としての友情出演俳優辰宮隆三を正木拓哉、フォーティンブラス役の羽沢武年を卯ノ原圭吾、古参女優松村玉代役に劇団東演の三森伸子、若い女優石田恵子に小川結子。
フレッシュでエネルギッシュな熱演を存分に楽しませてもらった。
上演時間、80分。
作/横内謙介、総監修/井上優、脚色/MSPインディーズ、演出/新井ひかる
8月19日(日)13時開演、アトリエ・ファンファーレ高円寺
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