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  カクシンハン・ポケット公演 『冬物語』              No. 2018-039

幻想的な雰囲気、異色な舞台装置に驚く

 劇場スタジオライフの地下に降りて行くと、中央に四隅の細いポールを柱にして周囲をラップの透明のフィルムで囲んだ3m四方の舞台があり、客席はその舞台を三方に囲んで設けられており、その舞台装置に一瞬驚かされた。このフィルムは、レオンティーズが嫉妬に狂ったとき引き裂かれ、舞台が進行するにつれ完全に破られてなくなってしまう。
出演者は演奏者のユージ・レルレ・カワグチを含めて9人だけで、主役をはじめ一人複数の役を演じる。
河内大和がレオンティーズと羊飼い、真以美がハーマイオニとパーディタ、それに羊飼いの息子の道化役、島田惇平がポリクシニーズとエミリアとアポロンの神託の使者ダイオン、それにアンティゴナスを襲う「熊」を演じる。
ポーライナと「時」を演じるのぐち和美は、台本を持ってそれを見ながら台詞を語っていたのが通常の舞台では考えられないことであったが、演出の意図もあるのであろうか。
その他の役では、アンティゴナス、アポロンの神託の使者クレオミニーズ、「羊」を野村龍一、カミローを岩崎MARK雄大、フロリゼルを井上哲、そしてマミリアスを子役の伊是名モアナが演じた。
後半部の毛刈り祭りのハイライトの場面では、観客は予め用意させられていた蛍光色の光を発するリングを手首に付け、音楽に合わせて手を振らされ、役者に引っ張り出され、中央の舞台の廻りを踊りながら回らされるという参加型の演出であった。
大詰めの再会の場面では、パーディタが見つかったことや諸々の話は、暗黒の舞台の中で役者それぞれが噂話をするように語られるが、何も見えない中で観客が手にはめた蛍光を発するリングが暗闇の中に浮かび上がって一種幻想的な雰囲気を作り上げていたのが印象的であった。
ハーマイオニの彫像が動きだす時の感動はそこに至るまでのプロセスが生み出すもので、自分としてはこの彫像が動き出す時の感動と涙はそこにいたるまでの舞台の集大成とも思っているが、この舞台においては特に感動的なものは感じなかった。それに、レオンティーズがポーライナとカミローを結ぶ合わせる台詞もなく終わってしまった。
上演時間は、途中10分間の休憩を入れて2時間30分。

 

翻訳/松岡和子、演出/木村龍之介、構成/カクシンハン、美術/乗峯雅寛
7月29日(日)13時開演、中野ウェストエンドスタジオ、チケット:4200円(自由席)

 

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