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  Sophia Shakespeare Company第12回公演 Hamlet     No. 2018-035

 遅まきながら、今回の出演者で主演のハムレットを演じる井上寛斗君が今年4月、「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会」(SAYNK)でハムレット役で出演した時、関連情報としてSophia Shakespeare Company(SSC)のことと、今回の『ハムレット』公演のことを初めて知った。
 プログラムによると、ソフィア・シェイクスピア・カンパニーは、2012年に上智大学外国語学部英語学科教授東郷公徳の呼びかけに応じた学生たちによって創立され、シェイクスピアの劇作品を原作の英語で上演する学生劇団ということで、年2回ないし3回の公演でこれまでに11回、8作品(再演が3作)が上演されている。
 今回の観劇で第一に感じた印象は、英語の発音はもちろん、台詞力、演技力も優れていると思った一方、「原作の英語」というところにアンダーラインを引いて強調しているように、この劇を観ていて(聴いていて)、原文に忠実であるという印象を強く持った。
 『ハムレット』は非常に長い作品なので日本語上演でもかなりカットして上演されるのが普通だが、途中休憩15分を挟んで3時間半の上演時間に示されるように、ほとんどカットなしで上演されたことも印象に残った。
 カット部分がはっきりと分かった箇所は、2幕2場でハムレットが役者たちの前で試みるプライアス最後のくだりを劇読する場面と、3幕2場の黙劇の場面であった。
 原作で上演される場合(に限らないが)、まずテキスト問題があり、フォリオ版(F) を採用するか、第2クオート版(Q2)を使用するかということになるが、今回Q2にはない'I could be bounded in a nutshell'(2幕2場)の台詞が語られ、Q2にはあってFにはない台詞、ハムレットがイングランドに向かう前フォーティンブラスの軍隊に出会った時の'What is a man'の(第7)独白部の台詞が前面カットされていたことなどから、Fのテキストに準じて演出されていたと思う。
 この両方の台詞はどちらもカットするには惜しい台詞で、普通は折衷版に沿って両方とも語られることが多いと思うがそれを敢えてしていないところに、この演出のテキストに忠実な姿勢を感じた。
 主演のハムレットを演じた井上寛斗君の演技、台詞についての個人的な感想として、ハムレット役者を代表する二人、オリヴィエとギールグッドのどちらのタイプに感じたかという譬えで言うなら、オリヴィエのハムレットであった。
 ギールグッドはどの役を演じていてもそこにギールグッドを感じるが、オリヴィエの場合は役の人物になり切ってしまうというところに井上君との共通点を感じた。
 圧倒的な台詞の量をよどみなくこなして、とにかく、凄いとしか言いようがない、というのが実直な感想である。
 演技力、台詞力で群を抜いて圧倒的な存在感を感じさせたのは、クローディアスを演じた(留学生の)Luke Bruehlman君。
 英語がたとえネイティヴであっても台詞力は別問題で、台詞の演技力に惹きつけられた。
 何よりも感心したのは、手の所作が全く自然であるということだった。
 日本人が手の所作をする場合、そこにどうしても人工的なものを感じざるを得ないのだが、日常の所作の中から自然に出て来Lukeの所作には自然な演技を感じた。
 今回の出演者は総勢19名であるが、そのうち14名が女性ということもあって、ホレイショーやフォーティンブラス、それにローゼンクランツとギルデンスターンなどの役を女性が演じていたのも特徴の一つであった。
 SSCの英語上演は、シェイクスピアを原文で読むのを楽しんでいる自分にとっては、テキストに忠実な演出であるだけに、読みと解釈に参考になるだけでなく、テキストを反芻するという二重の楽しみを与えてくれた。

 

演出/東郷公徳
7月7日(土)12時30分開演、阿佐ヶ谷・ART THEATERかもめ座、料金:2000円

 

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