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  内田聡明主宰・百年先俳優会アトリエ公演 『マクベス再宴』     No. 2018-030

 昨年、同じ会場で公演された『マクベス』の再演(再宴)ということで、今回の上演は"Vol.1.5"とその回数を数え、主演の莊司勝也によれば上演ごとに演出もキャステイングも異なっているということだが、昨年の公演は日程の調整がつかず観ていないのでその比較ができないのが残念。
 会場は阿佐ヶ谷ワークショップで、普段は少人数の講演会や催しに使われている会場ではあるが、最近は徐々に演劇活動にも活用されてきてだんだん舞台空間らしさを備えてきて、この日の舞台設定も客席を¬型にして二方向から舞台を囲み、座席も階段状にして後部席でも見やすくなっていた。
 舞台装置は、畳より少し大きめの可動式にしたパネル4枚を背景にして、そのパネルを場面に応じて移動させることで、狭い会場も奥行きをもたせて実際より大きく感じさせた(自分はいつものように最前列の椅子)。
 天井から裸電が吊るされ、場面によって明かりを全部消したり、一部だけ消してその場その場の雰囲気をうまく出すよう工夫されていた。
 今回の演出で特に面白いと感じたのは魔女の台詞回しと、その登場場面であった。
 冒頭場面の3人の魔女たちの台詞回しは、わらべ歌を唄うように語られ、わらべ遊びのような楽しさを感じさせるもので、これまで観てきたどの魔女のイメージとも全く異なり、非常に新鮮な感じがして引き込まれて見入った。
 マクベス夫人が夫マクベスの手紙を読む場面や、幻影の短剣の場面、そして門番の台詞の場面にもこの魔女が登場する。特に、門番の場面では、一緒になって遊ぶように門番の手を取ったりするのも、この魔女たちがわらべ遊びに興じているのを表出していて、その演出の斬新さを感心しながら楽しんだ。
 魔女は、最後のこの劇の場面にも登場し、「いいは悪いで、悪いはいい」の台詞を言いながら、マルカムたち一同の廻りを静かに回りながら暗転して幕となる。
 キャステイングの面白さとしては、一人複数役をする原佳代子のダンカンとヘカテ役と幻影、魔女1とマクダフ夫人を演じる渡辺美穂子、それに門番、暗殺者、シーワードを演じた宮崎聡など、その複数役で異なる台詞回しや演技を楽しませてもらった。
 前回とは異なるキャステイングとはいうものの、主役のマクベスを演じたのは今回も莊司勝也で、精悍な若さの魅力を感じさせてくれる力強い台詞回しに、百年先俳優会の未来を期待させてくれた。
 マクベス夫人には、河本優。夢遊状態で登場する場面では、彼女は1枚の紙を手にしてそれに指で何やら文字を書くような仕草で登場し、一人だけで周囲には医者も侍女も登場しない。台詞の陰影の深みには欠けるものの、若さの体当たりの演技が好ましい。
 シェイクスピアの劇では女役は少年俳優が演じるという当時の俳優事情もあって、登場人物の女役が少ないだけに女優の出番が少なく、そのためこの舞台では女性に男役をさせているが、その点でも効果的に感じたのはダンカンを演じた原佳代子以外に、マルカムを演じた有馬莞奈、ドナルベーンの坂井有紀。なかでもマルカムを演じた有馬莞奈の台詞回しはすがすがしい気がした。
他に、バンクオーを矢嶋伴和、マクダフに鳥居峰明などが出演し、演出の内田聡明は老人役として登場、総勢16名。
 全体的に、若々しい活力を感じさせただけでなく、斬新さの面でも新鮮さを感じさせる舞台であった。
 上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで2時間10分。

 

訳/小田島雄志、演出/内田聡明、企画/百年先俳優会
6月3日(日)13時開演、阿佐ヶ谷ワークショップ、料金:2500円

 

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