高木登 観劇日記トップページへ
 
  "グループえん"10周年記念公演・朗読劇 『ヴェニスの商人』    No. 2018-029

 最初に、とんだハップニングと失態について。
 高尾駅で偶然同じ列車の同じ車両にKSさんと一緒になったが、JR中央線にトラブルがあった影響から相模湖駅で特急通過の長い待ち合わせや遅延が重なった上に、次で降りる筈の藤野駅のアナウンスを車掌が間違えたこともあって4駅も通過した後乗り過ごしたことに気づき、運よく上りの遅れていた列車に乗ることが出来たので藤野駅には開演10分前に着き、そこから藤野倶楽部までタクシーに乗り、開演時間を遅らせてくれていたので何とか開演に間に合うことが出来たが、主催者の方々にはとんだご迷惑をかけてしまった。
 "グループえん"の10周年記念として、昨年暮れに『クリスマス・キャロル』の朗読劇を上演し、今回その第2弾として『ヴェニスの商人』を上演するにあたって、「ベニスの生き証人」としての口上役、山川のり子さんから両作品の関連性、共通項が語られたのが、注目すべき着眼点であった。
 『クリスマス・キャロル』の主人公スクルージ(Scrooge)は「守銭奴、けちん坊」の意味があり、『ヴェニスの商人』のシャイロック(Shylock)も普通名詞の意味として「冷酷で無慈悲な高利貸し」の意味があるという共通性を説明されたが、プロローグとして内容的にも素晴らしかっただけでなく、説明役の山川さんの語り口がとても温かく心に響いて聞こえた。
 この「ベニスの生き証人」は、物語の展開途中にも内容の理解に一役買って、折々登場して場面のつなぎの解説役を務めた。
 キャステイング面での面白さとしては、憂鬱なアントーニオ役には表情と語り口でうってつけの飯田正行さん、中村直子さんはソラーニオ、ネリッサ、ランスロットの3役をその都度衣装も着替えるという八面六臂の活躍、夫君の中村範行さんはグラシアーノとアラゴン役をノリノリの気分で楽しんで演じたのがもろに伝わってきたし、モロッコ大公やヴェニスの公爵を演じる鈴木清八さんもその2つの役を楽しんで演じているのが見て取れた。
 ポーシャ役には"グループえん"のマドンナと呼ばれている円道美由紀さん、ジェシカとポーシャの召使いに最年少の萩原鈴ちゃん、サレーリオやヴェニスの役人を荒井公代さん、アントーニオの友人役としてこの日だけの特別出演で小林純子さん、そしてバサーニオ役には今回初参加の橋沼渉さん、それにご子息で高校生の橋沼黎君がピアノ生演奏で出演。
 萩原鈴ちゃんの恋人役ロレンゾー役の予定であった三谷亮太郎君が病気のため降板となり、ロレンゾー登場の場面ではその台詞がカットされていたが、ロレンゾーとジェシカの最後の掛け合いの台詞の場面は、「ベニスの生き証人」役の山川さんがロレンゾー役を務めて、詩的で美しい台詞を鈴ちゃんと二人で聴かせてくれたのは思いがけなかった。
 指輪騒動の後の大円団では、嬉しい知らせの後、鈴ちゃんのジェシカは、舞台中央の前に進み出て虚空を見つめる様子をし、その前を悲嘆のシャイロックがゆっくりと通り過ぎて行って、終演。
 箱選びの場、人肉裁判と呼ばれる法廷の場、そしてこの劇のファンタジーとしての締めくくりの場である指輪騒動すべてを網羅し、それぞれの場面で出演者がアマチュアならではの個性を生かした朗読劇を楽しんで演じているところが大いに伝わってくる上演であった。
 最後になったが、主演のシャイロックを演じたのはこのグループの指導者でもあり、台本構成と演出を務めた円道一弥。
 上演時間は、途中10分間の休憩を入れて、2時間。

 

翻訳/小田島雄志、台本構成・演出/パク・バンイル
5月26日(土)13時開演、座・高円寺朗読台本・演出/円道一弥
6月2日(土)16時開演、「結びの家」藤野倶楽部にて、料金:2000円

 

>> 目次へ