高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   鵜山仁X浦井健治の『ヘンリー五世』             No. 2018-028
 

出演者の顔ぶれとこのシリーズの締めくくりとしての期待度が高かったことに対する反動からか、前半は緊張感に欠けてむしろ退屈さを感じさせたが、後半部はその盛り上がりを楽しむことが出来た。
舞台美術はこのシリーズ一貫して島次郎で、広陵としたなだらかな丘陵を思わせる大地が舞台奥まで続いて遥か地平線の向こうにまで通じているように感じさせ、舞台両脇には木片をモザイク模様に組み合わせた抽象的な櫓作りの構造体が二体、そして舞台下手の客席側には水の入った小さな池を備えている。
出演者の大部分は『ヘンリー六世』三部作、『ヘンリー四世』二部作、そして『リチャード三世』の出演者と登場人物像の役柄がほぼ重なる。が、心なしかその出演者のキャラがこれまでのシリーズと較べて個性が少し埋没しているように感じ、そのせいか前半部では登場人物と出演者の名前がすぐには結びついて来なかった。
その登場人物での演出の特徴として、説明役を複数の出演者が演じ、説明役はそのままその後の登場人物の一人として残り、そのこともあって説明役は場面によって入れ替わる。
最後のエピローグの台詞は『十二夜』の道化フェステが歌う曲の伴奏とともに、フランス側の女性役、イザベル王妃、キャサリン王女、キャサリンの侍女アリサを演じる塩田朋子、中嶋朋子、那須佐代子の3人によって締め括られたのが華やかな印象として心に残った。
台詞の可視化で感じた点が2つほどあるが、それはいずれも映画版で見た『ヘンリー五世』との比較からくるもので、一つはバードルフの処刑の場面。これは盗みを働いて死刑を宣告されたバードルフは、映画では木の枝に吊るされて絞首刑にされた場面が強く印象に残っていることもあって、この舞台で両腕を後ろ手にくくられて処刑人を後ろにして登場させる可視化された演出は蛇足的に感じられた。
今一つは、ピストルたちと同行した小姓が、オリヴィエの映画版ではフランス軍に殺され、子供まで殺したことに対して恨み歎く場面があってその印象が強く残っていたこともあり、これは原作にはないものの、原作にあったように感じていたが、この舞台では殺されるのではなく、小姓は出番の台詞が終わった後、舞台の奈落の底へと飛び込むことで彼の死を表象化していたように感じた。
印象的な登場人物は、横田栄司が演じた騎士フルーエリン。彼の演技と台詞力で後半部のやっと盛り上がりを感じた。騎士ガワーを演じる吉村直も横田の動に対して静の演技でしぶい感じがよかった。
このシリーズでは印象が比較的強く感じてきた岡本健一のピストル役は、思っていたほどには面白くなかった。
前半部で登場人物と出演者の名前が結びつかなかったと書いたが、前半でイーリー司教を演じた勝部演之が後半部のバーガンディ公や、シャルル六世を演じた立川三貴、フランス軍司令官の鍛冶直人などははっきりと分かった反面、騎士アーピンガとハーフラー市長を演じた金内喜久雄はよく知っているにもかかわらずキャステイングを確認するまで気づかなかった。
主役のヘンリー五世を演じる浦井健治より、自分としては脇役陣に魅力を感じて、そちらに関心が向いていた。
座席は前列から6番目の舞台真正面の位置と申し分ない席であった。
上演時間は、途中20分の休憩をはさんで、2時間45分。


翻訳/小田島雄志、演出/鵜山 仁、美術/島 次郎
5月29日(火)13時開演、新国立劇場・中劇場
チケット:(S席)8208円(シニア)、座席:1階15列37番、プログラム:1000円

 

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