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  タイプスプロデュース第92回公演 『夏の夜の夢』        No. 2018-027

 これまでに『夏の夜の夢』は60回以上観てきているが、その中でもタイプスプロデュースの『夏の夜の夢』はその都度異なる演出とキャスティングを楽しみにして何度となく観てきており、今回は、過去にメジャーリーグ公演の栗田芳宏演出による『ハムレット』の初演、再演でホレイショーを演じた元宝塚のスター、旺なつきの出演を一番の楽しみに期待しての観劇だった。
100年の歴史を持つ宝塚は立派な「古典」だとどこかで誰かが書いていたがその通りで、歌舞伎役者や宝塚の(元)スターが出演するシェイクスピア劇は、それだけで奥行きと華やかさを感じさせるものがあり、今回もその妙味を存分に味あわせてもらった。もっとも劇はスター一人で成り立つものではなく、今回の演出ではキャスティングの意外性の面白さも楽しませてもらった。
出演者の顔ぶれで登場人物の誰を演じるかを自分なりの想像をするのも楽しみの一つであるが、今回はそれを見事に外されたことによる面白さを味わった。
主演の旺なつきのタイテーニア、倉石功のオーベロンは順当で外れることはないが、一番の意外性は、これまでタイプス公演でマクベス夫人など重要なヒロイン役を演じてきた田中香子が、本来ピーター・クインス役であるところをボトムのおかみさん役として演じたことだった。
アテネの職人たちの職業や人物像の置き換えはこれまでにも他の演出などで数多く観てきており、その事自体は特別珍しいことではないが、ピーター・クインスとボトムを夫婦にして「とうちゃん」「かあちゃん」と呼び合うのは、家庭的で温かみのある微笑ましさを感じさせ、それを田中香子が好演した。
アテネの職人たちを演じたのはこの田中香子のほか、ボトムに井上一馬、劇中劇でシスビーを演じるフルートに狩野謙、スナウトに埴谷悠季、スターヴリングに竹下みづき、そして劇中劇でライオンを演じるスナッグをスナッグ家の「ばあさん」として登場する高橋かおる。その高橋かおるの弱々しいライオンの吠え声が愛嬌であった。
キャスティングの意外性に話を戻すと、チラシの出演者の並べ方から自分が想像していたのは、田中香子がハーミヤで、高村絵里がヘレナ、そして新本一真がボトムであったのがみな外れ、高村絵里はヒポリタ、新本一真はシーシュース公爵を演じていた。
ハーミヤとヘレナを演じたのは内田莉紗と松本稽古。この二人の身長はハーミヤを演じる内田莉紗の方が高く、劇中の台詞で二人の身長の話が出てくるが、逆のキャスティングなので台詞を入れ替えるかなと思ったら、意外や胸の大きさに置き換えて笑いを誘ったのも一興であった。
パク・バンイル演出ではおなじみのシェイクスピアにダンスを取り入れたエンターテインメント性は今回も楽しませてもらったが、今回は特に妖精たちを兼ねて演じているだけに劇中での融合性が強く感じられた。
最後のパックの締めの台詞は、主演が旺なつきであるだけに彼女が語ってフィナーレとなったのは納得のいく演出であった。
その他の出演は、パックに菊池沙織、ライサンダーに中陳剛佑、ディミートリアスに丸山徹、イージーアスはフルートとの二役で狩野謙、フィロストレートに調布大、4人の妖精には豆の花に河津璃海、芥子の花に黒崎沙季、蜘蛛の糸に奈々瀬やよい、蛾の羽根に堀内愛海、そして5人のダンサーたちで、総勢25名。
上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで2時間5分、大いに楽しませてもらった。

 

翻訳/小田島雄志、台本構成・演出/パク・バンイル
5月26日(土)13時開演、座・高円寺

 

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