高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   朗読で聴くTSCの 『ヴェニスの商人』           No. 2018-026
 

大学の授業の一コマで本来は非公開であるが、担当の井上優准教授とTSC主宰者である江戸馨さんの厚意で貴重な朗読を聴かせてもらうことが出来た感謝の言葉を最初に述べたい。
開始前の井上教授の説明を伺っていると、前の週の授業で予めこの作品の読後感想を書かせたうえで朗読を聴く授業となっておりその分理解度も高まると思うが、授業でこのような機会を得られる学生たちを羨ましく感じた。
授業の一コマということで時間の制約もあり全部の朗読は出来ないが、選ばれた場面の構成は作品のハイライト部を網羅し、且つ息抜きの場面ともいうべきランスロットと老ゴボー登場の道化の場面もあり、バラエティーをもたせたものであった。
開演にあたってのTSC(東京シェイクスピアカンパニー)主宰者の江戸馨による作品の概要の説明が簡単に述べられ、その中でこの作品の登場人物のその後の人生がどうなったかにとても関心と興味があるという話はTSCの上演作品にもなっている『ヴェニスの商人』の二部作にも関連しており、その二部作をとても興味深く面白く観たことがあるだけに、主宰者のこの作品への思い入れを改めて感じさせられた。
朗読の構成は、1幕1場のヴェニスの商人アントーニオの憂鬱とその仲間たちの場面、1幕2場のベルモントのポーシャとネリッサの会話の場面、1幕3場のアントーニオがシャイロックから3000ダカットを借りる場面、続いて2幕2場のランスロットと老ゴボーの道化の親子が登場する場面、3幕1場は悲劇の始まり、アントーニオの積荷を積んだ船が難破したという話とシャイロックの娘ジェシカが宝石とお金を持ち出してロレンゾーと駆け落ちした話、3幕2場のバッサーニオの箱選びの場、そして最後はこの作品の最もハイライトともいうべきヴェニスの法廷の場の、全部で7場面からなる構成で、この作品の3つのハイライトの一つ、最後の指輪騒動は時間の関係でカット。
各場面に入る前に江戸馨による場面の興味を喚起する要領を得た簡単な解説とその場面のキャスティングの紹介で始められるので、学生たちにとっては非常に分かりやすいだけでなく、興味を持って聴くことができたとのではないかと思う。
朗読の出演者は、主宰者の江戸馨をはじめ全員で5名。全員が登場人物を掛け持ちするが、主な役は、シャイロックを紺野相龍、ポーシャをつかさまり、バッサーニオを真延心得、ネリッサをしんばなつえ、ロレンゾーを江戸馨、場面によって登場人部を別の俳優が演じ、そのことでその登場人物を異なった印象で鑑賞できる。
TSCのリーディングは、本来の意味での朗読で余分な所作はないが、立体感と臨場感のある朗読で観客は想像力を働かし、場面々々で登場人物への自分なりの想像を膨らませながら楽しんで聴くことができる。
今回もいろんな想像を働かせながら聴いたが、たとえばアントーニオの憂鬱の原因は何かとか、放蕩を尽くしたバッサーニオが鉛の箱を選ぶなんてありそうにない事がもっともらしく感じたり、法廷の場でポーシャが変装した裁判官バルサザーとなって、最後の瞬間に「血を流してはならない」というのは切羽詰まって思いついたことで、予め考えていたことではないのではないかとか(これは一様にそう感じるのではなく、多様に聴きとれるところが面白い)、朗読を聴きながらその場その場で想像が走り、その想像を通して楽しむことができた。
それはなによりも演じる俳優たちの朗読力、台詞力によるものであるが、TSCの公演を長年観てきた自分には一人一人の俳優の演技までが心に浮かんでくるようであった。
最後になったが、佐藤圭一のリュート演奏もTSCの公演では欠かすことのできない貴重なもので、今回もその演奏をじっくりと味あわせてもらった。
学生たちには試験のかわりに感想が課せられていたが、彼らも十二分に楽しめたのではないかと思う。


訳・構成・演出/江戸 馨、作曲・リュート演奏/佐藤 圭一
5月18日(金)17時10分~18時40分
明治大学和泉キャンパス・第1校舎001教室(非公開)

 

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