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  インターナショナル・シアター・ロンドン(ITCL)第45回来日公演
              『ロミオとジュリエット』         
No. 2018-024

 ITCL来日公演の『ロミオとジュリエット』を観るのは今回が3度目であるが、今回が一番物足りなく感じた。
 最初に観たのは、2009年で、この舞台はITCLの持ち味であるスピード感があってそれがコミカルな演技にも反映されていたが、今回は2度目に観た2014年の舞台と同様にスピード感がないだけでなく、場面転換での暗転が多く、それがあまりに重なると観ていて気分と感情が寸断されてしまって興をそがれてしまう。
 場面転換での小道具などの移動が暗転の中で丸見えで、暗転させるより演技の延長で行う方がよかったと思う。コンセプト的には今回の演出は2014年の演出に通じるものがあったように思う。
 2014年の舞台はロミオとマキューシオを二人の黒人俳優が演じて、モンタギュー家とキャピュレット家を人種対立とも受け取れる構成だったが、今回、開幕シーンで白い衣装の3人と黒い衣装の3人の二組を登場させたところにその名残を感じさせる。
 その開幕シーンは、白い衣装を着た3人とフード付きの黒い衣装の3人が左右に分かれて聖歌(のような歌)を歌うところから始まり、一人が着ていた衣装を脱いでキャピュレット家の召使いのサムソンとなってその場に残り、上手からモンタギュー家の召使いのエーブラハムが登場してくると、サムソンは親指を口にくわえてエーブラハムに喧嘩を仕掛け、エーブラハムがサムソンを抑え込んだところでプロローグのコロスに代わって'Two households, both alike in dignity'の台詞を語り始めるという趣向を凝らしていた。
 そこへ喧嘩の仲裁に入ったベンヴォ―リオとティボルトの二人が剣を抜き合って戦うが、大公役のキャロライン・コロメイが登場して二人が大公の前に跪くが、その様子からこの二人を演じるディヴィッド・チッテンデンとジャクソン・ペトランドがモンタギューとキャピュレット役かと思ってしまった。
 キャピュレット夫人の登場はなく、キャピュレットが夫人の台詞を兼ねるのは2014年の公演と同じ演出で、ベンヴォ―リオを演じるチッテンデンが演じたが、それはそれなりでよいと思うのだが、個人的な感想としては2009年に男優のリチャード・グルーハンにキャピュレット夫人を演じさせた演出の方が、演出的にも演技的にも面白かったように思う。
 ロミオとマキューシオが夢の話をするキャピュレット家の邸の前には、天使と弓と矢を持ったキューピッド(というにはあまりに大人々々しているが)の白い石像が台座の上に立っており、その石像を俳優が演じて会話の途中でキューピッドが弓矢を構える姿の所作で動きを示すのは前回と同じ趣向の演出であった。
 最後の場面は、ロミオの後を追ってジュリエットが短剣で胸を刺して死に、その場に登場してくるのは3人だが、劇中人物としての登場は大公だけで、' glooming peace this morning with brings…'の最後の台詞で締めくくられるものの、あっけない終わり方で余情感の乏しいものであった。
 ロミオとジュリエットが舞踏会で初めて出会い、手と手を合わせて「巡礼」になぞらえて語る場面、バルコニーシーン、二人の後朝の別れの場面については、残念ながらいずれも感動に乏しく、満足させてくれるものではなかった。
 登場人物で面白いと思ったのは、ティボルトやロレンス神父、パリスを演じるペントランドが半仮面をつけて登場するキャピュレット家の召使いポットパンであったが、これはコメディアラルテ的な面白さというべきものだった。
 出演は、ロミオにジェローム・ダウリング、ジュリエットにエイミー・ヒスロップ、乳母や大公にキャロライン・コロメイ、マキューシオにアンドリュー・ナンス、それにディヴィッド・チッテンデンとジャクソン・ペントランドの6人。
 今回は、最前列の2列が関東学院大学の学生への招待席で、3、4列目が通常の招待席となっていて、自分はその招待席の3列目の中央の席で観劇した。
 上演時間は、途中20分間の休憩を挟んで2時間30分。


脚色・演出/ポール・ステッピングズ
5月12日(土)16時30分開演、学習院女子大学2号館B1やわらぎホール

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