高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   カクシンハン第12回公演 『ハムレット』       No. 2018-017
 

2014年11月に公演されて以来4年ぶりの再演であるが、ハムレットの河内大和とオフィーリア役の真以美を除いてキャステイングは前回とは大幅に変っている。
今回は出演者全員が「ハムレット王の亡霊」役を務める。
開演の合図もなく、舞台上手奥に傘をさしている者やフード付きのパーカーを着込んでいる者たちがひしめき合っており、上手の舞台上に据えられた照明が青色に変わるとその連中は一斉に信号を渡るようにして下手に向かって急ぎ、また上手へと引き返し、その動作の繰り返しの後に連中は舞台を丸く駆け回り始め、そのスピードをぐんぐんと上げていく。舞台に描かれた歩行者ラインに一人の男が倒れ伏すが、連中は構わず無視して走り続ける。一人の男が倒れた男の前にたたずみ、やがて跪く。
その場面から一転して、マーセラスやホレイショーが登場し、亡霊の出会う場面へと変るが、開幕からの数分間、観客を未知と不安の状況に導いていく演出は、観客を引き込む手法として形式こそ異なるが蜷川幸雄に通じるものがある。
謁見の場面では、クローディアスの演説時に下手奥のホリゾント上方の大きなモニターにクローディアスの様子が同時的に映し出される。クローディアスを演じるのは前回の上演ではポローニアスを演じた文学座の高橋克明、ガートルード役はのぐち和美。
前回同様ハムレットを演じる河内大和は独白シーンをそれぞれの場面で独白の台詞回しと所作に変化を持たせ、謁見の場の直後の最初の独白、「ああ、堅い、堅いこの体、いっそ溶けて」は、丸くうずくまった姿勢で語られ、独白の場ではないがポローニアスと出会う「言葉、言葉、言葉」の場面では猿のマスクをかぶって登場し、「尼寺の場面」の前の有名な'To be or not to be'の独白は、舞台中央の真ん前に出てきて直立不動の姿勢をして、無色の台詞回しで語り、背後には、ハムレットの様子を窺おうとするクローディアスとポローニアスの他に廷臣や亡霊役をかねる出演者のほとんどが横一列に並んでそれを聞いている。
レアティーズ(島田惇平)がフランスに出発する場面では、"ポローニアス・クラブ"のネオンサインが輝くディスコ・バーで若者たちが踊っているところで、レアティーズとオフィーリアはマイクを使って会話を交わし、真以美演じるオフィーリアは途中からラップ調で語りかける。
そこに現れた父親のポローニアス(里村孝雄)もノリノリの調子でレアティーズに教訓の台詞を語る。
ハムレットが父親の亡霊と出会う場面は思い思いの衣装姿で大勢の亡霊役が登場するが、ハムレットに語りかける亡霊役は、上半身裸で腹には晒を巻き、下半身は白い胴着のような袴姿で登場する。
劇中劇の黙劇の場面では、安倍首相のマスクをかぶった人物が床に寝そべっており、そこにトランプ大統領と金正恩のマスクをかぶった人物が登場し、二人が握手を交わしたりする時事的風刺のコミック・リリーフを取り入れ、大いに笑いを呼んでいた。
劇中劇が行われている間、クローディアスに注目することを依頼されたホレイショーがビデオカメラでクローディアスを撮影し、彼の表情がモニターに映し出される。
後半部の舞台ではパイプの折り畳み式椅子が舞台装置や、剣としての小道具代りに用いられ、椅子を場面によって組み替えることで変化をもたせていた。
前回ポローニアス役を演じ、また墓掘りの相棒役を務めた高橋克明は、今回はクローディアスと墓掘り役を務め、オフィーリアを演じる一方フォーティンブラスを演じた真以美が今回も同じ二役を演じたが、ウエディングドレスを着て女性的フォーティンブラスとして演じた前回と異なり、今回は防毒マスクをかぶり黄色の防護服姿で登場したが、果たして何を表象しょうとしたのか、ただの遊び心か。
最後の修羅場のシーンでは、毒の入ったワインを飲んで死んだガートルード役ののぐち和美は舞台後方で起きたままの姿勢で、ハムレットの死も立ったままであった。
そして最後は、ホレイショー(鈴木彰紀)がひきつるような息を吸い込む音を二度三度とさせ、暗転。
主だった出演者の感想としては、河内大和のハムレットは"りゅーとぴあ"の時代から観てきているので、その変貌を楽しませてもらっている。
今回役柄を変えての出演の高橋克明のクローディアスは、せっかちな気性を漂わせながらも時に威圧的な姿勢をハムレットに示していたが、墓掘り役ではその気分を抜いて子役が演じる墓掘りの相棒を相手に気楽な気分を出していたのが注目された。
ポローニアスを演じた里村孝雄は役者らしくない普通ぽさを感じるのだが、そこが茫洋としていて却って味わいがあるように感じた。
その反対にあるのが、肉体がそこにあるだけで強い存在感のあるガートルードを演じたのぐち和美。
出演は、ほかにローゼンクランツとギルデンスターン役に宮田幸輝と遠山悠介、廷臣のヴォルティマンドや劇中劇のピラスを岩崎MARK雄大ほか、総勢23名。
猥雑さとスピード感のある演出を、前回の上演と比較しながら今回の舞台の感想を反芻した。
カクシンハンのシェイクスピア劇は古典を感じさせない現代的演出に特徴があり、それが今の若い人達やシェイクスピアを知らない人たちにも受け入れられているのを感じる。
上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで3時間。


翻訳/松岡和子、演出/木村龍之介
4月18日(水)19時開演、池袋・シアターグリーン BIG TREE THEATER
料金:5500円、座席:C列11番

 

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