シェイクスピアの『十二夜』と『ヴェニスの商人』を別の作品とドッキングさせたオリジナルの創作朗読劇で、着想の面白さとシェイクスピア作品の加工を通しての新たな見方を楽しむことが出来る内容であった。
最初に、笹本志穂がナレーターで、丸山港都と浦田大地の二人による『銀河鉄道の十二夜』の朗読劇。
設定は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で、登場人物はすべてシェイクスピアの『十二夜』の登場人物の名前から取られている。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では、少年ジョバンニとクラスメイトのカムパネルラが同じ列車に乗り合せて、銀河の旅を楽しむが、振り返るとカムパネルラの姿が消えていて、ジョバンニが現実に戻るとカムパネルラが川に落ちたことを知らされる。
この朗読劇では、卒業をひかえた二人の高校生、シザーリオ(浦田大地)とオーシーノ(丸山港都)が乗り合わせた列車が突然止まり、その列車の中での二人の会話で展開するが、シザーリオの口調は実在感がなく二人の会話はどこかかみ合わない所がある。
二人の会話で登場する人物は、オーシーノが恋した同級生のオリヴィア、クラス委員長のマルヴォーリオ、それにシザーリオの双子の妹ヴァイオラで、ヴァイオラはオーシーノを愛しており、マルヴォーリオはオリヴィアを愛しているという設定で、原作との相関性を持たせながらも微妙なずれがあり、そこらあたりが原作を知っていると二重に面白さを感じることが出来るという仕掛けになっている。
シザーリオの口調の実在感のなさから、最後になって彼だけが列車に残ってオーシーノに列車を降りて歩いて行くように言うことで、シザーリオがカムパネルラと重なってくる。
いうまでもなく、シザーリオはオリヴィアが男装してオーシーノ公爵に仕えるようになった時の変名であるが、この設定ではシザーリオ(原作ではセバスチャンになる)は海で溺れ死んだことを連想させる。
『熱〇殺人事件、みたいなヴェニスの商人』は、場面としては人肉裁判の法廷の場で、登場人物はアントーニオ(西村俊彦)、若い法学士バルサザーに扮したポーシャ(笹本志穂)、バッサーニオ(浦田大地)、そしてシャイロック(丸山港都)の4人。
この朗読劇の面白さは、登場人物の人物像を大幅に変えてしまったところにあり、そのために生じる裁判の進行が途中何度も脱線してしまう。
アントーニオは自分を弁護する法学士があまりにも若いので初めから馬鹿にしたように対応し、ポーシャはその都度憤慨しながらも裁判を正常に戻そうとするものの、アントーニオの自分に対する態度だけでなくバッサーニオに対する態度にも憤慨して、遂には自分がポーシャであることまでその裁判の場で明かしてしまう。
ポーシャは、箱選びの絵姿は実は金の箱に入っていたのだが、バッサーニオのピュアな心を考えて銅の箱に入れ替えたことまで白状する。
シャイロックが証文に肉1ポンドとした理由について、たとえば「海を見たかったからだと言えば理由になりますかね」という台詞は、海に囲まれたヴェニスにいながらゲットーから出ることが出来ないユダヤ人としての切実な夢として語られる。
この朗読劇がつかこうへい的であるのは、激高する台詞のテンションが事態を思わぬ方向に導いていくという意外性の面白さにある。
裁判の結末は原作通り、肉を切り取る際に血を流してはならないということで決着するが、そこで終わらず、アントーニオは、若者世代にはまだ任せられないという強烈な思いがあって、それを公爵に携帯電話で訴えるが、公爵の反応はどうも冷ややかだったような終わり方であった。
上演時間は、2本で1時間。
Text/井上 優、音楽/道塚なな
3月25日(日)14時開演、根津・タナカホンヤにて
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