高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   板橋演劇センター公演 No.102 『ヴェニスの商人』      No. 2018-013
 

『ヴェニスの商人』はかつて「おとぎ話」であった。
黄と銀と鉛の箱選び、人肉裁判、そして指輪騒動のファンタジーであった。
それがいつしかユダヤ人問題などをかかえて問題劇のようになり、政治的・宗教的にも微妙な問題を呈するようになった。
それを板橋演劇センターは、むかしのおとぎ話に戻してくれた。
最近の演出ではエンディングに色々脚色して、あまりカラッとした終わり方がない傾向にあるが、遠藤演出では終わりを楽しく締めて、「ああ、面白かった」という喜劇の気分をしっかりと残してくれた。
今回の舞台装置は、ヴェニスとベルモンテの二つの場面を、観音開き形式の折り畳みで、次の場面の出演者がそれを開きながら登場し、舞台にスピード感を持たせていたのが特徴であった。
また、箱選びの3つの箱は天井に吊り上げられていて、箱選びの場面でそれが降りてくるようになっていた。
開演直前にはレパントの海戦を想像させる戦闘の音で、ホリゾントは海のイメージの淡いブルーの映像を映し出していたのが印象的であった。
『ヴェニスの商人』は1994年が初演で、その時シャイロックを演じた遠藤栄蔵は43歳だったという。
今回が5度目の挑戦で彼も早や67歳。
5度目とはいいながらも、自分は今回初めて観るのでこれまでのものとは比較ができないが、その他の出演者の顔ぶれを見る(再会する)のも楽しみな一つである。
プログラムのコメントではいつも今回が最後になると書いている加藤敏雄は今回ヴェニスの公爵を演じ、台詞もしっかり入っているし、まだまだ続けてもらえそう。
12年前にはアントニーを演じたという村上寿は、今回、老ゴボーと台詞のないユダヤ人を演じたが、老ゴボー役では立ってとぼとぼ歩く姿だけでその存在感がにじみ出てきて味がある。
最近続けて出演している道化役の眞藤ヒロシは、ラーンスロット・ゴボーを動きのいい演技で楽しませてくれた。
箱選びで登場するモロッコの大公には松本淳が怪演する一方、ユダヤ人のテューバルも演じ、アラゴンの大公はシャイロックを演じる遠藤栄蔵が珍しい組み合わせでの二役であった。
ポーシャ役は劇団民藝の石村昌子、箱選びではバッサーニオが箱を選ぶとき、美しい声で歌を聞かせてくれる。
ポーシャの侍女ネリッサには文月くんが、年齢とは無関係にはじけるような快活な演技で楽しんでいる。
アントーニオには、常連組の一人桑島義明、ベテラン組に加えて若手では、バッサーニオには稲益佑亮、ロレンゾーに谷津恒輝、その恋人ジェシカに田所柳、グラシアーノに高島一則、サレーニオに守屋愛太、サリーリオに安藤俊昭、サレリオに岡座謙、そしてポーシャの召使い役に坂本祐理。
板橋演劇センターの公演の持つ雰囲気は、地域に密着した地元の感覚を感じさせ、舞台と観客の一体感を感じさせ、とても和やかな気分になる。
上演時間は、休憩なしで2時間10分。


翻訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
3月24日(土)14時開演、板橋区立文化会館・小ホール、全席自由席


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