2016年に明治大学文学部主催の唐十郎展に相乗りして同大学文学部准教授井上優が企画して公演された唐十郎の『劇的痙攣』の中の「シェイクスピア幻想」の朗読劇の完結編。
Part Iは2016年と2017年にいずれも明治大学の学内施設で公演され、その演目は第1回が「焼き鳥屋のハムレット」「口説き屋ロミオ」「蜂のタイテーニア」で、第2回はその再演に「リチャード三世」が加えられた。
『シェイクスピア幻想』には7篇の短編が収められており、今回は残りの3篇を完結編としてエスパス・ビブリオの協力を得て初めての学外での公演となった。
これまでの公演と異なっている点は学外での公演という会場の違いだけでなく、これまでのアンケートを生かして作品に関しての解説が加わったことである。
シェイクスピアの作品になじみのない参加者に対し、朗読の前に、井上准教授がオリジナルの作品内容の概要と唐十郎作品朗読劇公演のきっかけや、作品との出会いの体験などを加えて解説された。
シェイクスピアそのものが種本を基に書いた作品が多くあり、その種本のことを知らなくてもシェイクスピアを楽しんで読む、あるいは観ることが出来るように、唐十郎の作品もシェイクスピアの作品を読んだことがなくとも十二分に楽しめる内容だと思うが、知っていれば二重に楽しめることは確かである。
今回完結編として取り上げられた作品は、「リチャード三世」「プロペラ親父の二百十日」「頬腹先生」「君はギャニミード」の4篇である。
「リチャード三世」は前回も取り入れられていたが、この朗読劇の導入としては自分にとっては懐かしく、ふさわしく感じた。
西村俊彦が、鯨カツ屋の主人=リチャード三世をせむしでびっこの容姿を演じて、長い木製の菜箸を片手に、もう一方の手に読み本を持ち、菜箸で本の頁をめくりながら、時折り見せるにやりとした笑顔は愛嬌のある凄みであった。
「リチャード三世」は以前の観劇日記にも書いているが、唐十郎の『鯨(げい)リチャード』で舞台そのものも観ているので、朗読劇の中でその記憶のイメージが重なってより楽しく立体的に聴くことが出来た。
「プロペラ親父の二百十日」は名前の感触から『テンペスト』をすぐに想像できるだけでなく、「嵐」を和風に「二百十日」と表現しているのも凝っている。ストーリーそのものとしてはシェイクスピアの『テンペスト』との関連性はないといってもいいが、関係性のない関係がまた面白い作品である。
「頬腹先生」は、ホホハラという音感からシェイクスピアのフォルスタッフを思い起こさせるのに十分だが、これも内容的にはシェイクスピアの作品とは全く関係ないが、微笑ましい内容である。
最後の「君はギャニミード」は、アーデンの森の中で、オーランド―とギャニミードに男装したロザリンドの恋愛ゲームで、ほぼ原作に近い展開であるが微妙にずらしているところが楽しめる。
西村俊彦、丸山港都、笹本志穂の朗読が作品を立体的に味あわせてくれ、道塚ななのギター演奏と歌も朗読とよくマッチングしており、小道具を使っての効果音なども楽しめた。
最前列中央部に座っていると、迫力満点であった。
この公演は今回で一応完結だが、この出演者たちの朗読劇を、3月には井上優作による『熱〇殺人事件、みたいなヴェニスの商人』と『銀河鉄道の十二夜』を聴くことが出来るのが今から待ち遠しい。
企画・解説/井上優、テキスト/唐十郎作『劇的痙攣―「シェイクスピア幻想」』
2月24日(土)15時開演、会場/御茶ノ水駿河台・bookカフェエスパス・ビブリオ
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