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  タイプス・プロデュース公演第90回 『冬物語』           No. 2018-004

 今回はタイプスとして最近では珍しく、ダンサーの出ないストレートプレイとしてのシェイクスピア劇。
久しぶりに訪れたスタジオアプローズの内部は改造され、観客席も60席と大幅に増えていた。
 この日は昼から雨で夜には雪に変わるというあいにくの天気であったが、平日のマチネというのに客席は満席で通路にも臨時席を設けるほどの活況であった。もっとも、観客の大半は出演者の関係者のようであった。
 開演前に気になったのは、プログラムにある出演者3名の降板であった。降板者は、今流行っているインフルエンザや、事故などによる降板でなく、演出の都合とあり、役柄もかなり重要なポリクシニーズ、カミロー、そしてアンティゴナスを演じる予定の者であった。
 冒頭場面でハーマイオニとポリクシニーズが親しく話を交わしている場面で、リオンディーズを演じる新本一真の台詞力にはいつものように楽しんで聞き入っていたが、ハーマイオニに対する嫉妬と疑惑の表情が最初から出ていて、そのためにこの場面におけるリオンティーズの突然の、それも唐突な嫉妬の爆発力が削がれていたように感じられて物足りなさがあった。
 逆に言えば、そこに演技力がよく出ていたということも言えるのだが、この場面ではリオンティーズの突然で唐突な嫉妬と疑惑の不自然さがむしろ大事だと思うのだが、それが最初から納得できるような演技で、その良し悪しの判断は別として、あくまで個人的な感想としてであるが、原文で読んで自分が感じてきたことや、これまでに観てきた舞台などからの感じとは少し異なっていた。
 これは全体的な構成からも感じられたことだが、内容的に台詞や場面のカットが多く感じられたことから起因していたように思われる。
 休憩10分間を挟んで上演時間が2時間というのは、小劇場での上演として特に短過ぎるとは思わないが、劇進行の体感時間として内容的に短く、はしょられた感じであった。
 その影響を感じたのは、最後でいつもは感動するハーマイオニの彫像が動き出す瞬間の昂揚感と感動が、今回は感じられなかったことに現れているような気がする。
 前半部と後半部を二部に分けて上演する場合、どこで区切るかも関心の一つであるが、この演出では、前半部を自分の過ちを後悔し、悲嘆にくれるリオンディーズをポーリーナがなぐさめ諭す場面で終え、後半はアンティゴナスが赤ん坊のパーディタをボヘミアの荒野に捨てる場面から始められた。
 キャスティングでは「時」の出演者が書かれていなかったので、この場面はカットされるかと思っていたが、マミリアスを演じた三浦理香子が演じて、16年の歳月が過ぎたことを観客に知らしめる。
 前半部のシチリアの場面は暗い雰囲気であるが、この舞台ではさほどその暗さを感じなかったのも、この観劇日記を書いていて改めて思い出した。
 前半部の暗さが、後半部の毛刈り祭りの明るい雰囲気を対照的に浮き立たせるのだが、前半部の暗さが低かった分、それほどの盛り上がりを感じさせなかった。
 この毛刈り祭りの場面での見どころの一つはオートリカスの登場であるが、萬谷法英演じるオートリカスは、演技も台詞もうまいと思ったが、演技に比して場が小さく、観客の立場から見て折角の演技も(見ていて堪能はしたが)十二分に生かし切れなかったような気がしたのが惜しい。
 ハーマイオニ再生で一同感激の再会の後、最後の場面ではリオンティーズがポーリーナとカミローを結び合わせるのだが、この演出ではそれが無かった代わりに、佐野眞介が演じるカミローがポーリーナの姿を目線で追い、ポーリーナもそれに応えるかのような微笑を浮かべていたのがとても印象的で、温かみを感じさせた。
 このポーリーナ役は演出によっては最も重要な役の一つであるが、この演出でも最後の幕引き、ハーマイオニが彫像として隠されていた秘密の場所のカーテンを引いてこの劇を終わらせることでその重要性を感じさせたが、それを演じたのは高村絵里。
 老羊飼いを演じた石山雄大も、演技や台詞だけでなく、その存在自体で温かかみを感じさせてくれた。
 出演は、ハーマイオニに湯川あゆみ、ポリクシニーズは降板者に代わってアンティゴナスの予定であった滝沢亮太、アンティゴナスは従者役予定であった市村大輔が降板者に代わって演じ、パーディタは原愛絵、道化に沼田天音、侍女役には24年ぶり舞台復帰という舟橋圭子や、関東学院大学在学中シェイクスピア英語劇を演じてきた佐瀬恵子など、総勢16名。ギター生演奏にいつものように井上達也。
 終演後は、満席だったこともあり、賑やかな興奮が漂っていた。

 

翻訳/小田島雄志、台本構成・演出/パク・バンイル
2月1日(木)14時開演、両国・スタジオアプローズ、チケット:3500円、全席自由

 

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