10年でシェイクスピア全作品を上演するという壮大な夢を実現しようとするSAYNK(シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会)が2年目に入り、回を重ねるごとにますます充実した内容と素晴らしい「演読」を新年早々に披露。「演読」と書いたが、今回の上演を観ていると(聴いていると)朗読劇(Dramatic reading)、「劇読」というより演技を伴った朗読劇として、三輪えりかが使っている「演読」という言葉の方が似つかわしい上演であった。
Dramatic readingに対してPerformance readingという新たな造語をあてたい。
単なる朗読劇でない特徴として、小道具の用い方や効果音などの音響などにもよく表れていた。
対立するモンタギュー家とキャピュレット家を、青色の布と赤色の布でそれぞれ表し、最後の場面では、この布を舞台前面に置かれた長テーブルの上に並べて広げることでロミオとジュリエットの死体を表象したのもそのよい例であった。
今回の出演者の顔ぶれは、SAYNKのメンバー7名とゲスト3名、それに今回新たにSAYNK研修生として3名の、合わせて13名とこれまでの最高の人数が参加。
参加メンバーは、60代のベテランを筆頭に、中堅、学生を含む20代の若々しいメンバーと、年齢的にも多彩で、バランスのとれた構成となっていて、それぞれが持ち味を十二分に発揮していた。
主宰者の瀬沼達也氏は、上演に当たってのコンセプト作りを欠かさないが、今回のテーマは「憎悪に下された天罰、喜びを愛によって殺す」であった。
SAYNKの日英語朗読劇の特徴はその名の通り英語と日本語を交えての朗読劇であるが、今回はこれまでと少し趣向を変え、台詞そのものには日本語の朗読を入れず、その代わりに劇場支配人役を登場させ、各場面の幕場を告げさせる一方、劇の内容の概況の説明を日本語でさせるという新たな工夫を加えた。
その効果としては、英語と日本語の両方の台詞の負担がなくなり、英語のみに集中できたために、これまで以上に英語の台詞に迫力が感じられた。
特に若手の成長が著しく感じられたのも今回の特徴であった。
なかでも、ティボルトを演じたベテランの増留俊樹氏を相手にマキューシオを演じた立花真之介君は、多くの場面でほとんど台本なしで力強い台詞で演技を披露したのが印象的であった。
登場人物を場面によってキャストを変えることで違った味わいを楽しむことが出来るのもSAYNKの特徴の一つであるが、例えば、ジュリエットは、前半を遠藤玲奈さん、後半を3年前に関東学院大学英語劇『ロミオとジュリエット』でジュリエットを演じた金森江里子さんが演じたのもその好例であった。
ロミオ役は大半を福脇遥一君が演じたが、3幕1場だけは関谷啓子さんが演じたのも面白い趣向であった。
ベテランの瀬沼達也氏は、シェイクスピア、キャピュレット、僧ロレンスを演じたが、レクチャーで朗読したプロ―ローグのソネットでは、氏の独特の様式美を感じさせる朗読で、確固とした瀬沼スタイルという型が出来上がっており、それを十二分に堪能させてくれるものがあって耳を澄まして聴き入った。
同じくベテラン組では、劇場支配人とモンタギューをゲストの佐藤正弥、モンタギュー夫人とパリスを小嶋しのぶ、キャピュレット夫人をゲストの関谷啓子が演じた。
台詞力と演技力で魅了してくれたのは、ゲスト出演の阪口美由紀。出演者の顔ぶれでは、乳母役はこの人で決まりであろうと思わせるだけの演技で楽しませてくれた。
坂口さんの娘さん愛衣さんが今回新たに研修生として加わってバルサザーや召使いを演じ、母娘そろっての出演となった。
阪口さんの夫君もYSG舞台出演をされたことがあり、一家そろって演技を楽しまれている。
研修生として参加した石川こゆりさんがベンヴォ―リオとグレゴリー、加藤巌君が同じくベンヴォ―リオと夜警を演じた。
『ロミオとジュリエット』は、ロミオとジュリエットを中心にした若い世代(新世代)と、モンタギューやキャピュレットを中心とした旧世代に図式化されるが、この度の朗読劇ではSAYNKの新世代の台頭を感じさせるものが大いにあり、今後がますます期待される上演であった。
上演時間は 約100分。
レクチャー講師・演出/瀬沼達也、1月7日(日)14時開演、神奈川近代文学館・ホール
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