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  シェイクスピア・シアター12月公演 『ペリクリーズ』       No. 2017-061

― 吉沢希梨のガワー、清水圭吾のペリクリーズ ―

 出演者の一人である高山健太が今回4回目の『ペリクリーズ』出演というので、自分の観劇日記の記録を見直してみると、2007年、10年、12年の観劇記録があった。
 今回、口上役の詩人ガワーを演じたのは、シェイクスピア・シアターで長年活躍したOGの吉澤希梨で、07年のガワーはOBの松木良方が国民服姿で登場、10年はガワー役をセーザとマリーナの二役を演じた住川佳寿子や、木村美保、松本洋平など5人で演じ、12年は木村美保と高山健太の二人が紙芝居を使って語るという趣向で、その都度異なる演出であった。
 吉澤希梨が演じるガワーは、黒い衣装で、ほとんど直立不動の姿勢で、台詞も沈着で静かな口調の中に凛とした響きがあり、台詞劇としての醍醐味を感じさせるとともに、かつての看板女優としての存在感を十二分に感じさせる重みのあるものであった。
 ガワーが最初に登場する場面では、ガワーのほかに大地に伏すような姿勢で5、6名いて、別に二人が王と姫が二人並んだ肖像画の額を、ガワーが語っている間、彼女に向かって掲げている。
 ペリクリーズがアンタイオカスの姫に求婚する場面では、大地に伏している5、6人の者たちは、それぞれ髑髏をペリクリーズに差し出すようにして手に掲げ持っている。
 吉澤希梨はガワーの役とともに、タルソの領主クリーオンの妻ダイオナイザの役をも演じていたが、今回の演出の特徴として、ガワー以外は全員半仮面をつけての演技であった。
 半仮面をつけて素顔が分からないことで、出口典雄の演出法の特徴である台詞回しや所作で、役者個人の特徴が非個性化されて、普遍化された人物像の形成となっていたように思う。
 というのは、これは個人的な印象かも知れないが、その例の一つとして、今回セーザとマリーナの二役を演じた鷹野梨恵子が、10年に同じ役を演じた住川佳寿子と重なって見えたことから感じたことであった。
 『ペリクリーズ』が「家族の離散と再会」をテーマにしていることから、この演出ではそれを際立他させるかのように、ペリクリーズとセーザが再会した最後の場面で、この二人だけが仮面を取り除いて象徴的に再会の喜びを表したの印象的であった。
 衣装面では、2007年と10年の演出では、国民服姿やもんぺ姿など時代性を考えさせるものがあったが、今回はガワーの黒い衣装とセーザ(マリーナ)の白い衣装が対照的で印象深かったが、そのほかは特に際立った感じはなく、全体的にジーパン姿や現代服のラフな姿であった。
 出演者については、最近はかつてのシアター生え抜きの役者も減って名前と顔がなかなか一致しないところに半仮面をつけているので、主演者を別にして声だけで分かったのは、ヘリケイナス、サイモニディーズ、女郎屋の亭主の3役を、役ごとに仮面を変えて演じていた高山健太ぐらいであった。
 当初チラシでは、サイモニディーズの役は高松正浩となっていたが、本番では高山健太に変わっていた。
 仮面を付けたことで個性が目立たない中で、髙村真弓が女郎屋の女将の役で印象に残る役柄と演技であった。
 演出と台詞回しが暗いので、最近はシアターの観劇も敬遠気味にしていたが、今回は暗さも気にならなく、久しぶりに満足感を感じた。
 最後になったが、主演のペリクリーズには清水圭吾が演じた。

 

訳/小田島雄志、演出/出口典雄、12月6日(水)18時半開演
俳優座劇場、チケット:1000円(ジャンジャンシート)、座席:14列9番

 

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