高木登 観劇日記2017年 トップページへ
 
   サインアートプロジェクト・アジアン Vol.6 『夏の夜の夢』    No. 2017-058
 

『夏の夜の夢』はこれまでにも食傷するほど観てきているが、聾唖者による舞台によるというKさんの情報紹介で、手話を使っての無言劇は一体どんなものになるのだろうかという興味があって、予約開始日早々に予約を入れて楽しみにしていた。
いつものことながら初めて観る劇団について事前知識を持たないまま観劇に臨んだが、当日会場に張り出されていた新聞の切り抜きコピーなどで、この劇団の全容と出演者の構成がおぼろげに理解することが出来た。
それによるとこの劇団は12年前の2005年に設立されて、当初は耳の不自由な人を中心にした活動であったようだが、今回の公演には23名が出演し、そのうち7名が何らかの障碍者で、耳の聞こえない人、全盲の人、そして小人病の人などと、あとは障害のない普通の人達との混成であった。
公演初日の当日の観客は、自分の前の席(最前列のA席)には全盲のお客さんが数名おられ、自分のB列の席では、両隣が聾唖者の女性で、周辺にも同じような方が大勢おられ、そのことに非常に驚きと感銘を受けた。
舞台そのものでは、さらに期待を上回るものがあって、これまでとは意味合いの異なる強い感銘を受けた。
開演は、出演者全員によるダンスで始まり、振付には手話も取り入れられていた。
ホリゾントの両サイドには二つの大小の円が描かれていて、開幕までは下手側の大きな円にこの劇のタイトルである「夏の夜の夢」という文字が色鮮やかに映し出されていたが、上演中、この大小の円は、手話通訳のない場面では耳の不自由な観客の為に台詞を映し出すのに使用され、さらには、さまざまな抽象的な絵模様を映し出す舞台効果にも使われる。
聾唖者の出演者(ヘレナ役もその一人であった)の台詞場面では、会話は当然手話でなされるのだが、その場合、字幕に台詞が映し出される場合と、別の登場者たち(多くは妖精役の者)が代わって台詞を語ったりすることで変化を持たせていた。
妖精パックの役では、普通の俳優と聾唖者の俳優の男女のコンビで演じ、台詞を普通の役者が語る一方、聾唖者が手話でそれを通訳する役を果たすが、その手話そのものが一つの所作のようで、それ自体をも演技として楽しむことが出来る。
演出面では、アテネの職人たちの劇中劇『ピラマスとシスビー』の役割を変更するという大胆な改変もあって、これも実に面白く、その変化が楽しかった。
クインスがピラマスの役を振り当てるのはボトムではなくスナウトで、ボトムは壁の役を振られる。
そして口上役はクインスではなく、全盲のサックス演奏者がターヴィリング役を務める。
ロバに変身させられるのはボトムで、それは原作と変わらないが、そのきっかけはボトムが小便を催してやぶの中に入っていったところでロバにされるという設定となっていた。
本番の劇中劇でもその役割は変わらず、クインスは、登場人物たちの所作だけの黙劇に台詞を語る役をするが、その劇も途中でライオン役のスナッグが出番のきっかけを間違え、舞台は大騒動となり、終幕へと収束していく。
妖精役はダンサーとしての女優たちと、シーシウスの宮廷人たちをも務める男優たちが、オーベロンの側の妖精役を務め、舞台効果を面白く盛り上げていた。
所作を演じる役者と台詞を語る役者を別の役者が語るという手法は、宮城聡の夢幻劇などでこれまでにも観てきて初めて観るものではないが、このような形で演じられるとまた違った趣の面白さがあった。
この劇は、ロックカーニバル『夏の夜の夢』として称せられているように、ドラム、キーボード、バス、ギター、それにサックスなどの生演奏の場が舞台奥にセッティングされ、音楽劇、ミュージカル仕立てとしての舞台であった。
設立して12年で今回の公演が6回目のということからすると上演は2年に一回のペースということになるが、この劇団の代表大橋ひろえ(舞台ではパック役を務めた)は、今回の上演にこぎつけるまでに1年半を要したという。
全く目の見えない人、耳の聞こえない人、障害のない人と、普通の人との混成での劇作りは想像を絶する苦労があったのではないかと思うが、作り上げられたものを見て、そこに何の違和感もない完成度の高い舞台であった。
ライサンダーを女性が演じ、ハーミアと双子のように感じられるようなキャスティングそのものの面白さもあったが、森の中でハーミアが悪夢から目覚めた時、ライサンダーがまだそこにいてハーミアに悪態をつくという、原作とは異なる台詞の順番の入れ替えなどの意外な演出にも面白さを感じた。
このように原作を通り一遍になぞるのでなく、原作の内容を尊重しながら、役割や場面のズラシを取り入れており、飽きるほど観てきたこの作品の意外な展開で、興味津々に楽しむことが出来た。
『夏の夜の夢』は、貴族(宮廷人)、職人(一般市民)、そして妖精たちという異次元の存在者たちが繰り広げる劇であるが、そのように異なる存在を、普通の人、障害のある人、性別を入れ替えての役などで演じることで、普通とは何か、正常とは何かを、改めて感じさせる舞台にもなっていた。
今後のこのような活躍を一層期待してやまない。拍手!!
上演時間は、休憩なしで2時間15分。

翻訳/小田島雄志、構成・演出/野崎美子、振付/香瑠鼓
11月22日(水)19時開演、池袋・あうるすぽっと
チケット:3500円(シニア)、座席:B列11番


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