高木登 観劇日記トップページへ
 
  板橋区民文化祭・演劇のつどい2017
       遠藤栄蔵による「シェイクスピアのソネット」朗読     
No. 2017-048

 板橋区民文化祭の一環として、当初はシェイクスピア劇の上演を検討したものの、出演希望者が集まらなかったので遠藤氏一人でやることにし、一人芝居よりもソネット朗読をやってみることにしたという打ち明け話を冒頭にされ、シェイクスピアのソネットに関しての説明を続けた。
 シェイクスピアの作品37作全作を翻訳した小田島雄志は、シェイクスピアの詩集のうち唯一ソネット集だけを翻訳しているが、戯曲作品の翻訳の言葉から小田島を詩人として仰ぐ遠藤氏は、かつてこのソネット全154編を3回に分けて池袋のバーで朗読を試みている。
 今回、舞台での初めての朗読ということで、遠藤氏が主宰する板橋演劇センターがいつもは劇上演の会場としている舞台を客席とするステージ・オン・シアターとして、ピアノ演奏付きで行った。
 ソネット1編の朗読に1分要するので、154編全部を朗読するとそれだけでも150分を超えるということで、内容的に4つのパートに分け、「結婚のすすめ あなたへ」、「旅路にて 私の思い」、「ダーク・レディ 黒い悪霊」、そして「エピローグ 愛の温泉」と題して各11編X 3+1編=34編を選出して朗読を行った。
 これらのタイトルは内容的に非常によく考えてつけられていると、まず感心した。
 ソネットについて一通り説明された後、シェイクスピアの作品中、例えば『ロミオとジュリエット』や『恋の骨折り損』などにもソネットがあると言って、突如、『ロミオ』の冒頭部、プロローグの序詞役の台詞、
     花の都のヴェローナに、
     勢威をきそう二名門、
     古き恨みがいまもまた、
     人々の手を血にぞ染む。
と、朗々と詠じたのには、一瞬聴き惚れてしまった。
 各ソネットの朗読は切れ目なく続けられたので、初めて聞く人にとっては次のソネットにいつ移ったかが分からない可能性が高いが、むしろその連続性を楽しませる構成となっていて気にはならなかった。
 次のタイトルのソネットに移る時、ピアノ演奏が入るだけでなく、着ていた上着の前ボタンを全部外したり、首に巻いているスカーフを垂らしたりすることで変化を持たせることで、それと知れるような工夫を凝らしていた。
 ソネットそのものの朗読でも、内容によって緩急、声の調子の高低などアレンジを加え、単調に陥らず、聴く者を絶えず惹きつけ、よかったと思う。
 朗読時間は、全部で40分。
 この日は、午後からあいにくの雨ということもあって、観客は(後で分かったことだが)翌日、この会場で、遠藤氏が演出する「宮沢賢治の童話」の朗読劇に出演する出演者の人たちだけで、全員でも10名に満たなかったが、貴重な公演であった。
 シェイクスピアのソネットを全訳しているということで遠藤氏からは直接の案内をいただき、貴重な体験をすることが出来たことを感謝したい。
 このような貴重な公演は記録に残すべきだと感じ、劇ではないが観劇日記として残すことにした。
 また、公演は入場料無料にもかかわらず通常通りのチケットを、「料金:入場無料」と記入された当日券として渡されたが、小さなことにも手を抜かないという姿勢、このことにも感銘を受けた。

 

ソネット翻訳/小田島雄志、構成・選出/遠藤栄蔵、
10月6日(金)19時開演 板橋区立文化会館小ホール舞台にて


>> 目次へ