新地球座による坪内逍遥訳『タイタス・アンドロニカス』の朗読劇が、雑司ヶ谷シェイクスピアの森主催の夏季特別プログラムの一環として、その第二部で上演された。
坪内逍遥訳による故荒井良雄の監修・朗読台本で、新地球座の久野壱弘がタイタス、倉橋秀美がラヴィニア、客演の北村青子がタモーラを演じ、わずか3人の登場人物で『タイタス』の全体像を見事に描き出すものであった。
タイタスの亡くなった息子たちを埋葬するにあたってタモーラの長男アラーバスが生贄にされようとするとき、タイタスに哀願するタモーラの北村青子の台詞力と、朗読劇ではあるが、ちょっとした手の動きや所作、目の表情で、観客一同が一瞬凍りついてしまったような冷気(霊気)を感じるほどの凄味があった。
タイタスを演じた久野壱弘は、坪内逍遥のシェイクスピアを長年演じ続けてきているだけに、タイトルロールにふさわしい貫録を示すに十分な台詞力で堪能させてくれた。出番と台詞の少ないラヴィニアを演じる倉橋秀美は、舌を切り取られた後の泣声の声の表情が真に迫って悲しみを誘い、出番の少ない彼女が場面の要所で入れる柝の音がこの朗読劇の緊迫感を大いに高め、臨場感を増幅させた。
第一部で主催者である雑司ヶ谷シェイクスピアの森のメンバーによって、『タイタス・アンドロニカス』の1幕から3幕1場までの抜粋で英語によるドラマティック・リーディング行われた後だけに、逍遥訳での朗読劇でその内容が一層深まって聴くことが出来、1時間足らずであったが、濃密な朗読劇を心ゆくまで堪能させてもらった。
この朗読劇の後、スペシャル・ゲストとしての尼理愛子による薩摩琵琶演奏があり、最初に四季を扱った弾き語り、続いて餅と酒の合戦、最後に祇園精舎の弾き語りで締め括った。「餅と酒の合戦」を琵琶の弾き語りで聞くのは初めてで意外であったが、大変面白く、観客からも時折笑いが漏れた。
第三部として、出演者と参加者との交流の懇親会が催され、出席者全員が自己紹介を兼ねて一言ずつ語ったが、それぞれ経歴に深いものがあり、聴いていて参考になることも多く、スピーチは1時間に及んだ。
参加者は、シェイクスピアを原語で読むグループの町田の会、国立の会、そして雑司ヶ谷シェイクスピアの森のOGや、その他出演者の関係者など、出演者を含めて総勢21名と盛況であった。
(写真提供:阪口美由紀さん)
企画/雑司ヶ谷シェイクスピアの森
8月30日(水)、雑司が谷地域文化創造館祭1会議室Aにて開催
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