高木登 観劇日記トップページへ
 
  シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会 第3回公演    
             日英語朗読劇 『ヴェニスの商人』      
No. 2017-041

 今年1月から始まったSAYNK(シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会)による日英朗読劇の公演が早や3回目を迎え、これまでにも非公式に述べていた10年でシェイクスピア全作品の上演を完遂するという目標を、今回の公演の挨拶でも改めて強調された。
 会の代表である瀬沼達也氏が朗読劇に先立っての講演で、朗読劇(ドラマティック・リーディング)として単なる朗読ではなく、立ち稽古に近い所作・表情を加えて皆さんに楽しんでもらえるよう努めることを語られた。
 朗読と朗読劇については様々な形式がありここでは立ち入らないが、今回このような決意を語られたことにおいても今後のSAYNKの方向性が伺えるように思えた。
 公演を重ねるごとに会も盛況になっていくようで、出演者の数も増え、多彩な陣容となってきている。
 第1回と2回は8名の出演で、今回は8名プラスゲスト2名として10人が出演。3回とも出演しているのは、代表の瀬沼達也以外では、増留俊樹、小嶋しのぶ、遠藤玲奈、清水愛理の5人で、今回初登場は今年6月のYSG公演でデビューした阪口美由紀と、同じくYSG出演者でもある福脇遥一、杉山由紀、金森江里子を合わせて4人であった。
 キャスティングはこれまで通り、それぞれが複数の登場人物を演じるだけでなく、場面によって登場人物を入れ替わっての朗読形式で、主だった役では瀬沼達也のシャイロック、増留俊樹のアントーニオは終始変わらなかったが、ヒロインのポーシャ役は場面によって、遠藤玲奈、金森江里子、清水愛理の3人が演じた。
 前回の『から騒ぎ』では清水愛理さんが素晴らしい歌声を披露してくれたが、今回は3幕2場の箱選びの場面でポーシャを演じた金森江里子さんが美しい声を堪能させてくれ、うっとりと聞きほれた。
 英語の台詞力については若い人もベテランも皆さん一様に素晴らしいが、前回に続いて二度目の出演となる関谷啓子さんが演じるバサーニオとグラシアーノ役での英語力は、これまでもYSG公演にずっと出演していたと錯覚してしまったほどで、自分の記録を見直してはじめてその間違いに気づいたほどベテランの風格があった。
 出演者の素晴らしい英語の台詞を聞く時は、時に目をつむって聞くだけで楽しむほどであった。
 『ヴェニスの商人』の代表的場面は、箱選び、人肉裁判の法廷の場、そして最後の指輪騒動の3つがあるが、それぞれポーシャを演じる3人の女性の演技(朗読)が光っていて、箱選びの場では金森さんの美声、法廷の場では公爵となる遠藤玲奈さんと清水愛理さんが演じる裁判官に変装したポーシャ、それに瀬沼達也氏のシャイロックが見ものであったが、最後の指輪騒動は時間切れで尻切れトンボとなってしまったのが惜しまれる。
 今回ゲスト出演の阪口美由紀さんは、老ゴボーと召使い役を演じたが、彼女は根っからの芝居好きを感じさせる演技で、素朴さを感じさせながらも、堂に入っていて、見ていても楽しくなる希有な存在である。
 全体としては、瀬沼氏がシェイクスピア本人になりすまして作品の紹介、場面展開について語るという趣向をこらして、この作品が初めての人にもなじみやすいようにしていたが、80分の予定では収まらず100分に延長してもなおかつ尻切れトンボに終わってしまったことを考えると、今一つ工夫が必要かと思われた。
 次回、10月の『ウィンザーの陽気な女房たち』の公演にも、今から期待の胸がはずむ。

 

翻訳/松岡和子、講師・演出/瀬沼達也、
SAYNK(シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会)主催・横浜山手読書会共催
8月20日(日)14時開演、神奈川近代文学館ホール


>> 目次へ