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  板橋演劇センター公演 No. 101 『ハムレット』        No. 2017-034

初演を20代でハムレットを演じた鈴木吉行が54歳にして3度目の挑戦

 一言でこの舞台の感想を述べるとすれば、ハムレットを演じた鈴木吉行の若々しさへの驚嘆に尽きる。
 シェイクスピア全作品を上演した板橋演劇センターとしてこの『ハムレット』の公演は今回が3度目で、初演は第34回公演の1989年5月、再演が1995年5月の第52回公演で、いずれも今回と同じ板橋区立文化会館小ホールで上演されており、ハムレットを演じたのは今回と同じく鈴木吉行であった(自分は残念ながら、初演、再演とも観ていない)。
 初演では20代、再演で30代であった1963年生まれの鈴木は、今回54歳でこのハムレットを演じている。
 ハムレットを演じた俳優はこの歳になればクローディアスの役を演じるのが一般的だと思うが、今回のハムレットを見る限り、鈴木はクローディアスではなくハムレットでなければならないと思わせる舞台であった。
鈴木が演じるハムレットは、古いスタイルのハムレット、印象的に言えば、ローレンス・オリヴィエやギィールグッドが演じたような黒い衣装に黒いマントを羽織った姿であったが、その古いスタイルが却って新鮮さを感じさせた。
 永遠の青年鈴木に加えて今回は、若手の活躍も目立った。
 ローゼンクランツとギルデンスターンには、稲垣佑亮と宮崎創史が演じ、二人はそれぞれ、デンマークの夜警のフランシスコ―とバナード、それにデンマークの廷臣オズリックとデンマークの廷臣という3役を務め、大奮闘。
 一人三役と言えば、レアティーズを演じた古谷一郎が、先王ハムレットの亡霊とフォーティンブラス軍の隊長役を演じたのは初めて目にする珍しい演出だと思った。
 ハムレットの恋人役オフィーリアは、鈴木が演じた初演の時にはまだ生まれてもいなかったであろう小田切詩織が演じたが、その素直な演技が瑞々しさを感じさせてくれた(彼女は、昨年、2016年1月の公演『ヘンリー六世・第一部』でジョン・トールボットとして出演していた時には、小田切沙織となっていたので改名したのであろうか)。
 カーテンコールでは、ヒロインとしての彼女を、主役の鈴木が舞台の前面に押し出して挨拶を受けさせるというベテランの心配りにも暖かさを感じた。
 演出面で特に気を引いた一つに、ホレイショーを演じた大間知賢哉のグレイの衣装と胸に下げた十字架の姿が修道士を感じさせたが、ウィッテンベルグ大学の神学を意識させたものであろうか。
 今一つ注目したのは、最後の場面でハムレットがクローディアスに毒杯を飲ませようとした時、クローディアスが毒杯をハムレットの手から奪い取って飲んで果てるが、さりげない演出の中に星和利が演じるクローディアスの一連の演技の中で新鮮なものを感じた。
 クローディアスの妃ガートルードを演じたのは、前回の『リア王』でゴネリルを演じた藤本しの、墓掘り人には『リア王』で道化を演じた眞藤ヒロシ、ノルウェー王への使いを務めるヴォルティマンドとコーネリアスにはベテランの深澤誠と森奈美守が演じ、フォーティンブラスには若手の上杉英彰が演じた。
 遠藤栄蔵が演じるポローニアスは、パリに旅立つレアティーズに有名な教訓を垂れることなくあっさりと送り出したのも、拍子抜けするほど思い切った演出であった。
 キャスティングには名前の出ていなかった酒井恵美子が劇中劇のルーシエーナスと墓掘り人を演じた。
 総勢14名の出演者で、上演時間は休憩なしで2時間20分、テンポの良い舞台であった。
 次回公演は時期未定で『ヴェニスの商人』となっている。楽しみにしている。

 

翻訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
7月15日(土)17時半開演、板橋区立文化会館小ホール、全席自由

 

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