タイプス公演の『夏の夜の夢』はこれまでにも何度か観てきているが、確認のため改めて観劇日記を見直してみると、実験的ともいえるアレンジの演出に、その都度違った味を楽しませてもらっていたのに気づいた。
その意味での今回の見どころとしては、アテネの職人たちの役をボトム一家に変えて、登場人物をパパであるボトムとその妻であるママのフルーチェ、そして息子のスナッグの3人のみとして、その3人で劇中劇「ピラマスとシスビー」を演じるプロセスであった。
ボトムを演じる新本一真とフルーチェを演じる櫻井志保が、パパ、ママと呼び合う温かな雰囲気に思わずふんわりとした気分にさせられる。この二人が当然のことながらピラマスとシスビーを演じ、息子が壁と月、それにライオンの3役を演じ、時にママがクィンスの役も兼ねてパパを指導し、そのママを息子がダメ押しをし、その3人の関係がアトホームな家庭を感じさせてくれた。
アトホームな感じを与えたのはママを演じた櫻井志保の好演によるところが大で、彼女の熱演で大いに楽しませてくれた。
新本は、第17期生としてのシェイクスピア・シアター時代にボトムを演じており、彼のはまり役ともいえ、若手の出演者たちと較べると、やはり一歩も二歩も長じている安定感があった。決して派手な演出ではないが、シェイクスピア劇を楽しんで演じるという新本一真の姿勢をそこに伺うことが出来た。
当初、出演者の名前を見た限り、タイプス代表の新本以外今回初めて観る出演者ばかりだと思っていたが、プログラムのキャスト紹介でママを演じた櫻井志保、ハーミアを演じた箕輪菜穂江、それにパックを演じた劇団夜想会所属の秦まりなの3人が、今年のタイプス公演のシェイクスピア劇に出演していたことが分かって、自分の記憶力の無さに愕然とする思いであった。
『ロミオとジュリエット』でジュリエットを演じ、今回ハーミアを演じた箕輪は、今回のキャスティングの中では一番適役の印象で、パックを演じた秦まりなも好感度のある演技を楽しませてくれた。
シーシュースとヒポリタの役は、妖精の国のオーベロンとタイテーニアを兼ねる演出が多い中で、この演出では別々のキャスティングで、今回その中では、シーシュースを演じた藤井健太郎が、新本の次に一番の年長者ということもあってか、一番安定感を感じて台詞を聴くことが出来た。
いつものようにダンサーの出演(今回は妖精役)、それに井上達也のギター生演奏もあり、スタジオ公演という小さな空間の中で、ぜいたくな気分を味あわせてもらった。
出演者は、上記に紹介した以外では、ヒポリタと妖精の豆の花二役を演じる竹下みづき、オーベロンに市村大輔、タイテーニアに木下有紗、ライサンダーに小野峻佑、デミートリアスに鈴木紀寛、ヘレナに星加梨沙、ボトムの息子スナッグに藤原りょう、ダンサーは山口りえ(蜘蛛の糸)、近藤さおり(辛子の種)、こみぞゆま(蛾の羽根)。
構成・演出/パク・バンイル、6月29日(木)14時開演、両国・スタジオアプローズ
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